「本当に、今日の結婚式、いい式だったね」


披露宴を終えて家に帰って来て、子どもたちも寝付かせた後徹と二人リビングのソファでゆっくりとしていた。


「そうだな。それにしても、あの渉が結婚だもんな」

「私たちも年取るわけだよね」


私が微笑むと、徹が私の方に身体を向けた。


「文子は、今でも十分綺麗だよ」


披露宴でお酒を飲んだせいだ――。


徹のこっぱずかしい台詞に私はそう自分に言い聞かせた。


「今日、飲み過ぎたの? そんなこと言っても何も出て来ないよ」


私は年甲斐もなく照れてしまって徹から顔を背けた。


「酔ってるわけじゃない。今日の着物姿なんて、綺麗過ぎてどこかに連れ込んでしまいたくなった」


結婚してもう九年も経つけれど、徹はこうして二人きりでいる時こんなことを言ってきたりする。私の方が恥ずかしくなっていつも困るのだ。


「バカ。もうおばさんだよ」


そう言って誤魔化す私を徹が抱き寄せた。


「俺にとってはいつまでも可愛い奥さんなんだよ」


ふわりと徹の腕に包まれて、私もなんだか甘えたくなってくる。
ただその胸に身を委ねた。


「……今日も、ごめんな。おまえに任せて」

「いいよ。式場に行ったら、みんなが子どもたちのこと見てくれたし。大丈夫」

「ごめん。いつも本当にありがとう」


ぎゅっと抱きしめる腕に力が入る。

二人でゆっくり過ごせる時間なんて本当に限られていて。
でも、たまにこうして二人でいる時は私を存分に甘やかせてくれるのだ。

もう決して若くはない私を、母でもない奥さんでもないただの女に戻らせてくれる。