「と、徹?! 腕、大丈夫、なの?」
驚きとドキドキで硬直する。
こんなシチュエーションでも、こんな的外れなことしか言えない。
「腕なんか平気だ。あんなところで泣いているおまえを人目に晒せるかよ」
徹の潜めた声がすぐ近くで聞こえて、余計に私の心臓をせわしなくさせる。
私を抱く徹の片腕にさらに力が入る。
「なんだ、面会の人か……」
向こうからさっきの入院患者さんの声が聞こえる。
病院特有の匂いとカーテンで仕切られた密室、そして少し向こうには他の人がいるというこの状況が、私を緊張で一杯にする。
でも、その一方で徹の広い胸が温かくて安心できた。
「文子、ごめん。さっきは突き放したりして。でも、話してくれてありがと」
痛々しい包帯がすぐ目の前にある。
そして、けがをしていない方の腕が私をぎゅっと掴まえている。
徹の胸に耳を当てると、徹の声と鼓動が私に響いた。



