そして、私は当たり前のことに今更気付く。
当たり前のものなんてない――。
あの眼差しも、優しく私を包んでくれるあの腕も、何もかも、当たり前にあるものなんかじゃないのに。
当たり前だと私に思わせたその時間をかけて、私たちは想いを積み重ねて来た。
この日感じた、突然徹を失うかもしれないと思った感情が私の胸を貫く。
アスファルトを踏み込む足が止まる。
徹が辛いんだって知ったのに、本当にこのまま帰ってしまっていいの――?
私はまだ何も本当の気持ちを徹に話していない。
徹はあんなにも真剣に思いを伝えてくれたのに、私は誤魔化したままだ。
いつも、お互いの気持ちをぶつけて、絡まってもそれを解く努力をしてここまで来た。
ちゃんと伝えるべきだったのに。
今の、私の胸の内を聞いてもらうべきだった。
徹なら、絶対にちゃんと聞いてくれるのに。
いつか、ちゃんと考えがまとまったら――。
そんなんじゃだめだった。
聞いてもらうだけでいい。
自分の気持ちをちゃんと話さないと、何も知ってもらえずに徹を傷付けたままになる。
不思議と身体中から力が込み上げて来て、アスファルトを反対に蹴り元来た道を走った。



