私はその言葉に傷付いた。
でも、多分それでも徹が私のためにかなり抑えているんだと分かる。
本当はもっと……。
全然まとまってなんかいない自分の気持ちを聞いてもらいたいなんてここで要求するのは、徹にとって酷なことかもしれない。
きっと、プロポーズしてくれた日から徹は、自分の胸の内の葛藤を私に見せないことで私に普通に接してくれていたんだ。
何でもなかったことのように――。
そうやって心の均衡を保っていた。
それを私が土足で踏み込んだようなものだ。
どうして、私は大事な人をこんなにも苦しめてるのだろう。
「分かった。帰るよ。今日はゆっくりしてね」
振り切るように徹に背を向けた。
私がここで泣く資格なんかない。
徹は何も言わなかった。
外に出ると、まだ暗くなり切っていない空が私を待っていた。
それだけ、いつもより早く仕事を切り上げたのだと思い出す。
歩きながら無意識のうちに胸に手を当てる。
まだ、胸が激しく鼓動していた。
徹の胸の内を、本当の心の声を聞いてからずっと、私の胸を激しく打ち続けていた。
そして、私を拒絶した徹の横顔を見た時の鋭く刺すような痛み。
これまで、どれだけ私が徹に優しく包まれていたのか思い知る。
長い時間を積み重ねていくうちに、いつの間にか当たり前のことになっていた。
徹がいて、私に優しい眼差しを向けてくれることが。
徹に愛されている自分が。
徹は、どれだけ時間が経っても変らず私を大事に想ってくれていたのに。
ずっと変わらない優しい愛情をくれたのに――。
何故だか、いつも私を愛おしむように見つめてくれた徹の眼差しばかりが思い浮かんだ。



