素直の向こうがわ【after story】



「それより、おまえ、こんな時間にこんなところにいていいの? 仕事は?」


でもそんな表情も一瞬のもので、すぐに元の表情に戻っていた。


「あ!」


すべてを放り投げて来てしまったことを思い出した。


「そうだった。ここにはいつまでいるの?」

「明日まではここでじっとしてろってさ。左腕が使えないだけで他は大丈夫なのに。まあ、仕方ないから大人しくしてるよ」


そんなことを言う徹に思わず小言を零した。


「当たり前でしょ! 少しでもいいから仕事しようなんて思わないの。最初にちゃんとしておかないと治るものも治らなくなるよ」

「怖いな。おまえに怒られないようにじっとしてるよ」


人の話を聞いているのかいないのか、冗談交じりの答えに余計に怒ってしまう。


「じゃあ、ちゃんと今日は大人しくしていて。仕事帰りにまた来るから」

「慌てておまえまで転ぶなよ」


そう言って笑う徹をもう一度見つめて、病室を後にした。
何はともあれ、大事になっていなくてホッとした。
徹もこちらが拍子抜けするほど元気だったし。


でも、さっき一瞬過った思いの衝撃は消えなかった。


――徹にもしものことがあったら。


今回はそんなことにはならなかったのに、その『もしも』が私の心に植え付けられていた。