自分の心臓が激しく鳴り始める。
「松本さん……?」
「研修医って? 研修医って誰?」
私は我を忘れて女の子に詰め寄っていた。
せり上がって来る恐怖に震えそうになる。
「え? 誰って、松本さん、研修医に知り合いなんているんですか?」
「いいから、それ誰なの? 教えて!」
それはもう悲痛な叫びになっていた。
徹でありませんようにと自分勝手なことを祈っている。
私の必死さに怖気づいたように後輩の女の子が口を開いた。
「えっと、確か、河野さんっていう方だって言ってましたけど。私もよく知らなくて……」
血の気が引いて行く。
「松本さん、どうかしたんですか?」
「それって、いつの話?」
私は全身が震えそうになるのを必死で抑えた。
「今日の朝らしいです。病院内だけあってすぐに処置してもらえて大事にはいたらなかったらしいですけど……。ちょ、ちょっと松本さん!」
私は彼女の言葉を最後まで聞かずに席を立っていた。
スマホを握りしめて執務室を出た。
掛けたところで出るわけないと分かっているのに、徹の番号をスマホに表示させてしまう。
やっぱりいくらコールしてもつながることはなかった。
大怪我って?
大丈夫だよね?
誰に問い掛けているのか分からない。
私は自分の置かれている立場も何もかも忘れて、一度も訪ねたことのない徹がいつも詰めている医局に走っていた。



