素直の向こうがわ【after story】



「とりあえず、膝枕でもしましょうか?」


久しぶりの甘い雰囲気から来る気恥ずかしさに、おどけたように言ってみた。


「えっ……」


そうしたら、想像以上に驚いてぎょっとしている徹の姿に、今度はこちらが慌ててしまった。


「う、うそ。冗談」


あまりの恥ずかしさに、咄嗟に徹に背を向けた。


膝枕くらいでそんな反応することないのに。


って、自分だって相当に慌てふためいている。

自分の部屋の温度が一気に上昇した気がした。


「……出来れば、冗談にしないでもらえるとありがたいな」


背後から聞こえた声に思わず徹の方に振り向いた。

その視線の先にはバツの悪そうな表情があった。


「えっと、はい。じゃあ、どうぞ……」


もう何年も付き合っているというのに妙にぎこちなくなる。
硬い動きで、私は横座りをした。


「じゃあ、遠慮なく……」


おずおずとその頭を私の膝の上におく。
徹の顔を見下ろすと、真っ直ぐに私に向けられた視線とぶつかった。


「至福の時って、こういうことを言うんだな」

「バカ」


そう言って笑う徹から慌てて目を逸らした。

長い付き合いの中で膝枕なんてしたの、初めてかもしれない。

胸の上に手をおいて目を閉じた徹が、口を開いた。


「この三か月半、必死だった……」


大きく息を吐き出しながら零された言葉。
私は黙って耳を傾けた。