じっと見つめていた背中がくるりとこちらへと振り返る。
「ん?」
私が不思議に思って徹を見つめると、私の方へともう一度戻って来た。
「どうしたの?」
私の声には応えずに素早く私の肩を抱き寄せた。
そして、耳をすまさないと聞こえないような声で言葉を吐きすぐさま私から離れた。
すぐに背を向け走って廊下を曲がり、私の視界から徹の背中が消える。
――あんまり我慢し過ぎるな。
私の耳を掠めた言葉。
明らかに疲れ切った表情をしていたくせに。
我慢し過ぎるなって、他にどうしろって言うのだろう。
心の中でそう思って苦笑する。
でも、きっと、何も言わない私を心配してくれているのだ。
それだけで、救われた。
私も頑張れる気がする。
ちゃんと頑張らなきゃ。
徹の支えにならないと――。
その思いを胸に、私も自分の行くべき場所へと向かった。
ただ、今はこの距離で徹を支えていたい。
それならなんとか頑張れるから。
それが一番、徹にとっていい彼女でいられる。
このままで――。
徹を困らせないための私の精一杯の想いだ。



