本当は、私にとっても今年の四月はこれまでとは違う。


この病院に就職して四年目の春。
徹が研修医としてやって来る。


この三月に徹は医大を卒業した。

医者への第一歩を踏み出すのだ。
でも、まだ本物の医者ではない。
これから二年間の研修医時代を経て医師となる。


本当に医者になるのって大変だ。


私は、大学を卒業して運良く徹の通う医大の附属病院で管理栄養士として採用された。
毎年採用があるわけでもなく、募集の人数も若干名。
我ながら、よく試験に通ったと思う。


私も社会人になって丸三年。
気付けば結構年を重ねたものだ。

徹がずっと学生だったからなんとなくまだまだ若いつもりでいたけど。



患者さんに合わせて病院食のメニューを考える。
その相談のための医師や看護師との打ち合わせの場に向かう途中で、研修医が集まっているところに出くわした。

その中に、もちろん徹の姿もあった。


「ああ! あれ、研修医じゃないですか? あっ、あの人結構爽やかかも」


隣にいた彼女が興奮して指をさす。
その指をさされている人は、もちろん、徹じゃない。

彼女の目に留まったのは、優し気な目と柔らかな髪を揺らす、笑顔の素敵な人だった。研修医同士で談笑しているようだ。


「確かに、あの笑顔の爽やかさは目が行くかもね」


私がそう答えると驚いたように彼女が私を見つめた。


「え? 松本さんも? いつもと選ぶタイプ違うじゃないですか」


まさか徹を指差すわけにも行かず適当に相づちを打っただけだ。
去年までは徹本人がそこにいたわけではないから本当のことを言えたけど、今回はそうはいかない。

十人女性がいたらおそらく九人はその爽やか君がいいと言うだろう。
でも、多分一人くらいは徹に目が行く。
決して万人受けはしないけど、誰かが目を留めてしまう。

徹はそういう人だ。