恋になる、その前に

戸惑う瞳のなかにある迷いを見つけ、そこにつけ入る言葉を重ねる自分の狡さを自嘲しながら、もう一度手を伸ばした。

あなたは頷けばいいだけです、と囁く俺の手を今度は振り払わなかった。



 
結果、俺はどうでも良い横田を盛大に祝ってやった。

同期のなかには俺が横田に媚びを売っていると勘違いする奴もいて、途中白い目で見られるという不名誉なオマケも付いたが。

それでも彼女が彼女の意地を通すところを見届けてご褒美も頂いた。

その後も隣にいることが当たり前に感じさせるくらい構い倒して、互いの時間を重ねていって。

この関係を開き直った彼女の、気安い存在くらいには格上げされたらしい。

元々、他人の気持ちに同調したり傷口に手を触れたりするのは俺にとって、最も苦手な分野のはずだった。

だけど樹希のように相手を眺めてるだけの関係に甘んじるなんてことも、俺には考えられない。

多少強引だとしても、手に入れてみなければその肌の感触も決して分かりはしないんだから。

だから後悔はしていない。

後悔なんかはしていないが、手に入れたいと思っていたものが日々変化していくのも止められない。

駆け引きと引き換えにしちまった、“愛”だとか“信頼”だとか。

—― どうやって手に入れよう。


策士と罵られようが外堀から埋めていこうか。

疲れて微睡む彼女のもつれた髪をそっと手櫛で梳かしながら、身勝手な俺は今夜も画策する。

早くあなたが俺のところに落ちて来るように。


-- End --