恋になる、その前に

「何が」

怪訝そうな赤い顔が俺のほうを向いた。

「聞きましたよ、今日。主任、幹事するんですよね? “結婚祝いの会”でしたっけ。いつから、そんな日本人っぽいことするようになったんですかね、うちのひと達は」
「有志だけの集まりって名目だから。……たまたま同期会の幹事の順番が私だったってこともあって、そんな流れになったのよ。それが上のほうにも聞こえて、大きな話になっちゃって」
「どこかの重役のお嬢さまをもらうからって、何で上も媚びんのかなぁ」

有志といっても、課内に横田を慕っている人間がいるのか甚だ疑問だ。

少なくとも俺の同期達は、横田からのとばっちりを受けた人間ばかりで、お祝いムードの欠片もない。

だが、そんな奴に惚れてたこのひとに、いまさら告げるほど鬼畜な人間じゃないつもりだ。

「同期なんでしたっけ。それにしたって断れたんじゃないですか? 仕事だって忙しいのに」
「……やれと上司に言われれば従います。それがサラリーマンなんだから」

……傷付けられたくせに。

そんなパーティーを彼女がクソ真面目に仕切る必要があるとは思えない。

「貧乏クジ引くの、得意なんすよね」
「……私のこと?」

アルコールの力は大きくて、ムッとしたのが分かりやすい。

口を尖らせる仕草がいつもより幼く見えた。

「手下が必要なら言ってくださいってことですよ」
「それって、高遠さんが手伝うって言うの?」

彼女が目をしばたたかせたので、俺はニヤリと笑う。

「あちらと同じ課の人間がいた方があなたも動きやすいでしょ?」