恋になる、その前に

「……俺が慰めましょうか、あなたのこと」

我ながら滑稽で、口説き文句にもならない。こんなのは付け入る隙を狙う、ただの駆け引き。

「……言ってる意味が分からないんだけど」
「横田さんが言ってた通りか、イロイロと確かめてみたくなったんで。そしたら三峰さんも、俺がどこかでペラペラ喋ったりするかしないか、見張れていいでしょ」
「……高遠さんのこと、何だか思い違いしてたみたいね。ちょっと軽めの爽やかなひとっていうのが女性社員達の総意だったのに」

仕事をするうえでの対人スキルはそれなりに持っている。

だからと言って人畜無害な人間でいるつもりもない。

自分の欲を通すくらいには。

「俺は元々この程度の人間なんで、勝手な幻想なんか持たれたって迷惑ですよ」

「……私にどうしろって言うの」

彼女の怒りを露わにした表情にとうとう抑えがきかなくなった。笑みを浮かべて立ち上がり、三峰との間合いを詰めた。

「そうですね、とりあえず飲みにでも行きますか」
「あなたと私が?」
「そっ、親睦をかねてってことで。今からだと、速攻で仕事を片付けても八時過ぎますかね。まぁ、金曜日なんだから、少しくらい遅くても平気っすよね」
「……そんな気分じゃないんだけど」

仏頂面の彼女の両肘を引っ張って、半ば強引に立ちあがらせる。固まった肩が、慣れない人間を警戒する猫を思わせた。

「だから行くんですよ。言いましたよね、慰めるって」

俺が笑みを浮かべると、主任はいとも複雑そうな顔をした。