「別に大丈夫だよ。チャイムが鳴ったら、皆居なくなってくれたしね。
とりあえず、私、靴を履き替えてくる」

「おう」と返事をしようとしたけれど、
それは誰かの声に阻まれた。

「ちょっと待って、桜木ちゃん」

「……部長、どうしたんですか?」

自分の学年の下駄箱に足を進めようとした楓佳の前に
ジャージ姿の男がいた。
名前のテンプレートには“3年B組、沙々倉拓巳”と書かれているように見える。

「やっと見つけた……、ごめん!僕の伝え間違いでさ。今日、ダンス部休みじゃ
ないんだよね……」

「えっ……、そうなんですか?」

楓佳はダンス部に入っている。
そして、昨日確かに楓佳は今日も部活が休みと言っていた。
優しそうだけど、抜けてる部長。
俺から見て、それが沙々倉先輩の第一印象だった。

「多分ジャージとか持ってきて、無い……よね?」

「は……はい」

「ほんっとごめん!とりあえず、準備はしといたから……」

あたふたする沙々倉先輩に満面の笑みを見せる楓佳。
見たことの無い笑顔にチクリと胸が痛んだ気がした。

「……行ってこいよ。俺、先帰ってるから」

楓佳が俺に何か言おうとしていたけど、
楓佳が言葉を発する前にぶっきらぼうにそう言い放ち、頭を下げてから生徒玄関を出た。