「……待てよ」
急に乱暴に肩を掴まれた。
その低くて深みのある声は姿を見なくても誰だか分かる。
「こ、来ないでっ!」
あたしはとっさにセンパイの手を振り払った。
まさか、ここまで追いかけてきたの?
今は、もうなにも考えたくないのに……
キッとセンパイを睨んだあたしを見て、彼は突然クスクスと笑い出した。
何がおかしいの?
「そうゆう勝気な反応もそそられるね。
…今すぐ喰べたくなる」
「〜っぅっ⁉︎」
急に顎をヒヤリとした手で撫でられ、ゾクッと寒気がした。
…冷たすぎる。まるで人間の手じゃないみたい……
センパイ…
これがホントにあたしの好きだったセンパイなの?
ちがう。センパイは優しかった…
その優しさがあたしはとても大好きで……
こんな、こんな冷たい目、センパイじゃないみたいだよ……
あたしのセンパイを見上げる目には間違いなく怯えの色が宿っていた。
「……俺のことが怖い?」
センパイが顎に当てていた手を頰へと撫でる。
ふっと笑ったその表情は何故だかとても悲しそうだった。

