……せ、センパイ……



あたしと、そしてセンパイに手を掴まれている久美子の目がみるみる間に丸くなる。



「さ、桜井センパイ……っ!これは……あの……」



久美子は慌てて何か言おうと口を開く。


しかし、センパイの冷ややかな瞳に遮られてしまった。


……ぞっとするくらいの氷のような瞳。


「次に手、出したら許さないから」



「ッ……!行くわよ!」



センパイがそういうと、久美子たちは唇を噛み締めて憎々しげに去って行った。



嵐が去ったようでホッとする。



よかった……この場はなんとか大丈夫みたい……



ああ……でも、あの久美子たちがこのまま黙ってるワケないよね……



仕返しされそう……



なんてことを考えてると、センパイが顔を覗き込んできた。


「……大丈夫?」


「……!いえっ!大丈夫です!」



綺麗な顔が間近にあり、あたしはビックリして声が裏返ってしまった。


目を丸くするセンパイ。


ああ…恥ずかしい……



今日であたし、どれだけセンパイの前で失態をしてしまったんだろう……



「それにしても、言い返すなんてけっこう度胸あるな。

君のこと探してたら急に大声が聞こえてビックリした」


「黙ってられない性分なもんで…」



だって、センパイの悪口言うなんて許せなかったもん……


「あ、あとこれ落とし物。

落としてたの気付かなかったみたいだから届けにきた」


あ!それはあたしのハンカチ!


よかった……なくしたらどうしようかと思った。


「それ、大切な物なの?」



大事そうにハンカチを受け取るあたしを見て、センパイが尋ねる。


「これは私とある人を繋ぐ大事なもので……今でもあたしのお守りなんです」



そう言うと、センパイはあんまり興味なさそうに「ふーん……」と呟いた。