千瀬は器用で、センスもいい。

それはもちろんわかっているから、こうやってメイクについて口を出されても、あまり文句は言えない。



実際、千瀬がグロスを薄めに塗ってくれて学校に行けば、由真ちゃんに「グロス変えたの?そっちの方が似合うね」と言われてしまったし。

おかげで潔く透明のグロスを買うことにした。



「そういえば、クラス分けってまだ貼られてないの?」



「んー、なんかこの学校の伝統みたいだよ。

8時半ちょうどに、先生たちが一斉に貼るんだって」



「……伝統なんだ」



別にこだわらなくても良さそうなのにな、と思いつつ、千瀬を見上げる。

それに気づいた彼が、「なに?」とわたしを見つめるから、すこしだけ照れくさくなった。まっすぐな視線を向けられるのは、まだやっぱり、慣れない。



もう付き合って半年以上経つのに。

千瀬に対する気持ちもどきどきも、おさまる気配なんてない。




「……同じクラスがいいなと、思って」



「東はクラス替えもう出たらしいけど。

幹部全員同じクラスだってミヤケから報告来たよ」



由真ちゃんとももちろん同じクラスがいいけど。

やっぱり千瀬とは離れたくないなあと思っていたら、8時半。先生たちが模造紙の上を壁に貼り、模造紙を引っ掛けていた紐を引っ張れば、すべての名前が見えるようになる。



わたしの名字は、夏川。

千瀬の名字は七星だから、同じクラスのときはいつも並んでる。……はず、なのに。



「……千瀬、何組だった?」



「俺は2組らしいね。

アルトと羽泉と由真は同じクラスみたいだけど」



「わたし1組なんだけど……」