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ニヤリと笑う栄さんを見た。
ほんと、いじわる。
ほんと、素直じゃない。
あたしは大きく息を吐いた。


「あたし、言われないとわかりません」


しれっと言ってみた。
なんだ、この駆け引き。
自分で仕掛けておいて笑えてくる。
缶に残っていたビールを飲み干した。


「素直なタイプなので」


いつか栄さんに言われたこと。
あれは、栄さんと仕事をはじめてすぐのとき。
あのとき。
少しだけ距離が近くなったような気がした。
栄さんは少し眉をよせて考える表情をして。


「やっぱり、相田さん怖い」


そう言いながらやさしく笑う。
いつもはポーカーフェイスなのに。
笑うとくしゃっとして。
このギャップにやられた人は少なくない。
いつのまにか。
気づいたら。
あたしもその一人。


「もう一度訊きます。栄さんは、何を思ってあたしのことを誘ってたんですか」