「葉月にさわるな。出ていけ」


ものすごく冷たい声。
小西さんは慌てて立ち上がり、控室から出ていく。
あたしは力が抜けてその場に座り込んだ。


「ケガは?」

「足首をちょっと」


栄さんが深いため息をついてしゃがみこむ。
着ていたスーツのジャケットをあたしにかけてくれた。
栄さんの香り。
あ、今日は休日仕様のニオイだ。
なんだかすごくホッとする。


「…こわかった」


ため息と一緒に思わず出た言葉に、涙が落ちた。


「オレもこわかった」


栄さんがあたしを抱きしめた。
いつものポーカーフェイスや、淡々とした声ではない。


「なんでこんなことになってんの」

「すみません」


なんで怒られなきゃいけないんだ?と思うけど。
この腕のなかは気持ちよくて。
やさしくて。
安心する。


「もう泣くな。大丈夫だから」


そう言って、栄さんがあたしの背中をさする。
小西さんに触れられるのは気持ち悪かったのに。
栄さんはちがう。

あ、そっか。
きっと、そういうこと。