しばらくして、会場のドアが開いた。
出てきたのは栄さん。
手には2つグラスを持っている。
きょとんとして見ていると、グラスが目の前に置かれた。
栄さんは隣りの空いてるスツールに座る。


「頼まれたもの、持ってきた」

「えっ。あたし、由貴ちゃんに…」

「それを頼まれた」


栄さんは自分の持っているグラスを、あたしの目の前にあるグラスに当てた。
カチンといい音が鳴る。


「飲まないの」

「いただきます」


キレイなゴールド。
炭酸がはじける。
グラスを口元に近づけると、いい香りがした。


「いい香り…」


思わず漏れ出た言葉に栄さんがフッと笑った。


「タダ酒期待してたんだろ」

「そんなことないです」


シャンパングラスは細身で。
一気に飲み干してしまった。
…正直、物足りない。


「いつまでここいるんだ」

「指示があるまでは」

「…ふーん」


栄さんもシャンパングラスを空にした。
飲み干してしまえば、もうここにいる理由も無いだろう。
しかし、スツールに座ったまま。


「相田さん、何かあった?」