「あたしのおかげですか?」

「まぁ、最後の一手として同行お願いしてるのはたしかだな」


栄さんからそんな言葉が聞けてうれしくて。
顔がにやけそうになる。
さっきまで怒られて気持ちはシュンとしていたのに。
あたしって、簡単だ。

川面に日差しが反射してまぶしい。
車のボンネット脇に寄りかかる栄さん。
あたしは隣りに並んだ。


「今度、何かおごってくれてもいいですよ」

「いま息抜きに連れてきてやってるだろ」


あ、そういうことだったの?
てっきり。
栄さんがサボってるのだとばかり思っていた。
一本目のタバコを吸い終え、二本目に火をつける。
あたしはその動作をボーッと見ていた。


「なに」


怪訝な表情を浮かべる。
少しためらったが、こんな時じゃなきゃ訊けないと思い、あたしは気になっていたことを質問した。


「怖いものってありますか」


いつも自信があって。
余裕があって。
怖いものなんて、無さそうに見える。
栄さんはあたしの脈絡のない質問にフッと笑って言った。


「ない」

「ですよね」


即答されて、あたしは苦笑い。
そんなタイミングで栄さんのスマホが鳴った。
ディスプレイを見たあと、吸っていたタバコを途中で消す。
少し言葉を交わして、電話を切った。


「そろそろ戻るか」

「はい」


シートベルトを締めると、車がすぐに走り出す。
しばらくして、栄さんがふと言った。


「…オレは素直じゃないところもあるから」


何のことかと思い、運転席の栄さんを見る。
栄さんは前方を見たまま。


「相田さんみたいな素直なタイプ、怖い」

「…え」


思いもよらなかった言葉にびっくりした。
何て返せばいいのかわからないでいると。
栄さんは軽く、「うそ」と言った。