「まっ、麻衣!」
思わず口にしてしまった言葉に、
「あっ、あー」
と言って人指し指を俺に向け何かに驚いた様子の麻衣だった。
「ど、どうして蘭がここにいるの?」
俺の顔を見て安堵したのか、麻衣は胸を撫で下ろしたようだ。が、そんな悠長な事を言っている場合じゃないのだ。
「麻衣! 逃げろ!」
必死に叫ぶが、当の麻衣は事の重大さに気付いていないらしく「えっ? 何?」と聞き返してきやがった。くそっ、説明している暇はないと、麻衣に向かいダッシュする。廊下はいい感じで滑りやすく結構足を取られるが、そんなのおかまいなしだ。とにかく今は何も事情を知らない麻衣の元へ向かわないと。
麻衣との距離が一気に縮まり、あと数歩のところで、俺とは別の方向から麻衣に向かい近づいてくる気配がある。さっき俺を襲った奴なのか? 咄嗟に顔を向けるが、やはり何も見えない。しかもこの角度、そして俺へ手を出してこないことからしてこいつのターゲットは俺ではないようだ……って、まさか麻衣なのか? くっ、何も知らない麻衣が襲われたらそれこそ一撃じゃないか。
「まっ、麻衣! 伏せろ」
「えっ、ええ?」
ダッシュで向かってくる俺に驚いたのか、麻衣はその場で固まってしまい、オロオロするばかりであった。こうなったら、口で言っても間に合わないと、左足に体重をかけ、その溜め込んだ力を開放するように麻衣へ向かい飛び込むと、瞬間的に麻衣を抱きかかえ、頭に手を添えると後ろの空間にダイビングした。
俺たちが地面に到達するかどうかの間際、麻衣が居た場所のドアが景気良く舞い散った。
「なっ、何? 蘭どうしたの?」
なぜか頬が朱に染まっている麻衣だが、俺もそんな麻衣にドギマギしている場合じゃない。
「話は後だ、こっちに来い。走るぞ」
速攻で麻衣を起き上がらせ、麻衣の手を握りながらこの場から離れようと走り出した。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。キャッ」
俺が手を引くスピードと麻衣の歩幅が合わなかったらしく、足を縺れさせ、地面に激しくダイブしてしまった。
「いったーい」
情けない声とともに地面に座り込む麻衣だが、奴の気配はもう目の前に迫っていた。この気配を麻衣は気付いているのだろうか。ふと思いはしたが麻衣じゃ気付かないだろうな。と諦めもつくな。
さて、ここでどうやら終わりらしい。この得体の知れない奴によって俺と麻衣は最後になるのだ。だが、まあ、ここは最後まで麻衣を守らないと。
今この状態は生命の危機なのは間違いないが、俺の心は不思議と落ち着いていた。何故だろう? それは多分ここに麻衣がいるからかもな。なんて思いながら、麻衣の前に立ち、そいつを迎え撃とうと大きく両手を広げた。
奴の気配が目の前まで迫り何かが振り下ろされる気配。やっぱここまでらしい。こんな事なら告白でもしておいてもよかったな。などと辞世の句にもならない後悔をしていると、
「……大丈夫よ。まだ、死なないわ」
落ち着いた声が真上から聞こえる。こりゃあ、もう死後の世界で三途の川の番人にでも話しかけられているのか? と、ふと視線を上げると、空中でゆきねが剣を構え、こちらに跳躍していた。初めてこの世界で出会った時の記憶が鮮明に蘇り、今、この現状と重なって見える。そうしているうちに、運動エネルギーを失い自由落下に移行したゆきねは、刀の切っ先を垂直に振り下ろした。
鈍い金属音が響き、今度は一撃でその気配が消失した。ゆきねはそのまま一回転すると、何事もなかったかのように着地を見事に決めて俺たちに視線を向けた。
「大丈夫?」
いつも通りの口調に戻っている言葉に、
「ああ、大丈夫だ。助かったよ。きっと助けに来てくれると思ってた」
服についた砂やら埃やらと落としながら、ゆきねを見つめると、
「たっ、たまたまなんだから、たまたまここを通りかかったら、あんたがやられそうになってて、仕方なく助けてあげたってわけよ。勘違いしないでよね」
言い方は乱暴だが、とてつもなく頼りになる言葉で、その一言を聞いた俺はいままでの恐怖が消え飛ぶ思いだぜ。
「あっ、あのう、これはどういう事?」
地面に尻餅をついたまま、一人蚊帳の外状態の麻衣が不思議そうな顔をして俺とゆきねを交互に見つめていた。そういえば、この状況を一人把握していないような感じの奴がいたんだったな。しかし、説明しようにも説明が非常に難しい。なんと言ったものか。
「なあ、麻衣」
「何?」
ようやく立ち上がった麻衣は少し怯えているような表情だった。
「何で、麻衣がここにいるんだ?」
「えっ?」
「だから、ええと、ここは少し特殊と言うか、真っ暗だし、変な世界だろ? どうしてここに麻衣がいるのかと思って」
麻衣は少し俯き加減に、
「私にも分からないの。自分の部屋で寝てたはずなのに、気付いたら学校にいて、どうしていいかわからなくなっちゃったから歩いてたの」
家で寝ていたはずなのに学校にいるだんなんて夢遊病の気がないとしたらパニックになるのは必至なのだが、そこでテンパらずに散策するなんて天然の麻衣にしかできない業だな。
「真っ暗ですごく怖かったんだけど、歩いてたら急に蘭の声がするんだもん。ビックリしちゃったよ」
ようやく落ち着いてきたらしく、スカートの埃を払いながら起き上がるが、何故いきなり麻衣はこの世界にすっ飛ばされたのだろうか?
「それより、蘭は御巫さんと何やってたの?」
今度は矛先がこちらに向けられた。いや、ちょっとこの状況は説明し辛いぞ。合理的な返答を持ち合わせていない俺は横で立ち尽くすゆきねに視線を向けるしかできなかった。
思わず口にしてしまった言葉に、
「あっ、あー」
と言って人指し指を俺に向け何かに驚いた様子の麻衣だった。
「ど、どうして蘭がここにいるの?」
俺の顔を見て安堵したのか、麻衣は胸を撫で下ろしたようだ。が、そんな悠長な事を言っている場合じゃないのだ。
「麻衣! 逃げろ!」
必死に叫ぶが、当の麻衣は事の重大さに気付いていないらしく「えっ? 何?」と聞き返してきやがった。くそっ、説明している暇はないと、麻衣に向かいダッシュする。廊下はいい感じで滑りやすく結構足を取られるが、そんなのおかまいなしだ。とにかく今は何も事情を知らない麻衣の元へ向かわないと。
麻衣との距離が一気に縮まり、あと数歩のところで、俺とは別の方向から麻衣に向かい近づいてくる気配がある。さっき俺を襲った奴なのか? 咄嗟に顔を向けるが、やはり何も見えない。しかもこの角度、そして俺へ手を出してこないことからしてこいつのターゲットは俺ではないようだ……って、まさか麻衣なのか? くっ、何も知らない麻衣が襲われたらそれこそ一撃じゃないか。
「まっ、麻衣! 伏せろ」
「えっ、ええ?」
ダッシュで向かってくる俺に驚いたのか、麻衣はその場で固まってしまい、オロオロするばかりであった。こうなったら、口で言っても間に合わないと、左足に体重をかけ、その溜め込んだ力を開放するように麻衣へ向かい飛び込むと、瞬間的に麻衣を抱きかかえ、頭に手を添えると後ろの空間にダイビングした。
俺たちが地面に到達するかどうかの間際、麻衣が居た場所のドアが景気良く舞い散った。
「なっ、何? 蘭どうしたの?」
なぜか頬が朱に染まっている麻衣だが、俺もそんな麻衣にドギマギしている場合じゃない。
「話は後だ、こっちに来い。走るぞ」
速攻で麻衣を起き上がらせ、麻衣の手を握りながらこの場から離れようと走り出した。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。キャッ」
俺が手を引くスピードと麻衣の歩幅が合わなかったらしく、足を縺れさせ、地面に激しくダイブしてしまった。
「いったーい」
情けない声とともに地面に座り込む麻衣だが、奴の気配はもう目の前に迫っていた。この気配を麻衣は気付いているのだろうか。ふと思いはしたが麻衣じゃ気付かないだろうな。と諦めもつくな。
さて、ここでどうやら終わりらしい。この得体の知れない奴によって俺と麻衣は最後になるのだ。だが、まあ、ここは最後まで麻衣を守らないと。
今この状態は生命の危機なのは間違いないが、俺の心は不思議と落ち着いていた。何故だろう? それは多分ここに麻衣がいるからかもな。なんて思いながら、麻衣の前に立ち、そいつを迎え撃とうと大きく両手を広げた。
奴の気配が目の前まで迫り何かが振り下ろされる気配。やっぱここまでらしい。こんな事なら告白でもしておいてもよかったな。などと辞世の句にもならない後悔をしていると、
「……大丈夫よ。まだ、死なないわ」
落ち着いた声が真上から聞こえる。こりゃあ、もう死後の世界で三途の川の番人にでも話しかけられているのか? と、ふと視線を上げると、空中でゆきねが剣を構え、こちらに跳躍していた。初めてこの世界で出会った時の記憶が鮮明に蘇り、今、この現状と重なって見える。そうしているうちに、運動エネルギーを失い自由落下に移行したゆきねは、刀の切っ先を垂直に振り下ろした。
鈍い金属音が響き、今度は一撃でその気配が消失した。ゆきねはそのまま一回転すると、何事もなかったかのように着地を見事に決めて俺たちに視線を向けた。
「大丈夫?」
いつも通りの口調に戻っている言葉に、
「ああ、大丈夫だ。助かったよ。きっと助けに来てくれると思ってた」
服についた砂やら埃やらと落としながら、ゆきねを見つめると、
「たっ、たまたまなんだから、たまたまここを通りかかったら、あんたがやられそうになってて、仕方なく助けてあげたってわけよ。勘違いしないでよね」
言い方は乱暴だが、とてつもなく頼りになる言葉で、その一言を聞いた俺はいままでの恐怖が消え飛ぶ思いだぜ。
「あっ、あのう、これはどういう事?」
地面に尻餅をついたまま、一人蚊帳の外状態の麻衣が不思議そうな顔をして俺とゆきねを交互に見つめていた。そういえば、この状況を一人把握していないような感じの奴がいたんだったな。しかし、説明しようにも説明が非常に難しい。なんと言ったものか。
「なあ、麻衣」
「何?」
ようやく立ち上がった麻衣は少し怯えているような表情だった。
「何で、麻衣がここにいるんだ?」
「えっ?」
「だから、ええと、ここは少し特殊と言うか、真っ暗だし、変な世界だろ? どうしてここに麻衣がいるのかと思って」
麻衣は少し俯き加減に、
「私にも分からないの。自分の部屋で寝てたはずなのに、気付いたら学校にいて、どうしていいかわからなくなっちゃったから歩いてたの」
家で寝ていたはずなのに学校にいるだんなんて夢遊病の気がないとしたらパニックになるのは必至なのだが、そこでテンパらずに散策するなんて天然の麻衣にしかできない業だな。
「真っ暗ですごく怖かったんだけど、歩いてたら急に蘭の声がするんだもん。ビックリしちゃったよ」
ようやく落ち着いてきたらしく、スカートの埃を払いながら起き上がるが、何故いきなり麻衣はこの世界にすっ飛ばされたのだろうか?
「それより、蘭は御巫さんと何やってたの?」
今度は矛先がこちらに向けられた。いや、ちょっとこの状況は説明し辛いぞ。合理的な返答を持ち合わせていない俺は横で立ち尽くすゆきねに視線を向けるしかできなかった。

