チャリを漕ぎ漕ぎ三十分後、校門の前では、
「…………」
こんな沈黙が俺を迎え入れた。相変わらずの表情でゆきねが微動だにせず立っているじゃないか。
「よっ、よお」
「やっぱり来てくれたのね。異常は感じ取った?」
「いや、天笠から連絡がきたんだ」
「あの女から?」
「そうだ。この世界を救ってくれってさ」
「本当? あの女は組織の人間よ。そんな事を思うわけないじゃない」
「確かに言ってたぞ。まあ、何だかんだあいつも、この世界が楽しいんじゃないのか」
「そう……」
何かを考えていそうなゆきねだが、突然顔を上げたかと思うと、
「今晩中に決着をつけるわよ。来て」
そう言って、踵を返す。俺はゆきねに続くように校門から学校の敷地内に足を踏み入れた。
「そうそう、初めての時はちょっとビックリするかも」
振り返りながらさらっと言うが、そんな肝心な事を今さら言うな。
時既に遅し、校舎内に一歩足を踏み入れた瞬間、全身の毛が逆立つような感覚で、一瞬心臓がドクリと跳ねた。
「くっ!」
全身に力がはいらない。平衡感覚を失った俺は情けなく校門に手をついた。
「ちょっと大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
これから世界が終わるってのにこんな情けない姿をしてられないとな。天笠にも頼まれちまったし。両足に気合いを入れ、なんとは踏ん張る。よし! なんとか行けそうだ。
「とりあえず、校舎内へ入るわよ」
「ああ、見た感じここには何もないよな」
そう言って空を見上げてみる。先ほどまで星が瞬いていた夜空とは違い、質の悪い黒絵の具で塗り潰したような闇の世界が広がっていた。なるほど、確かにいつもの世界とは違うバグの世界って感じだな。
校舎内に入る頃には動悸が収まり、なんとか普通に歩けるようになった。職員玄関の辺りは特に異常はない。全てが闇でほぼ手探り状態だが、これといっておかしな点は見当たらなかった。
「……」
隣ではゆきねが俺の横を淡々と歩いており、こいつには全部見えているのか? 常人の視力ではないのではないかと思えるほど、いつも通りの姿勢と表情で廊下を歩いていた。
一階フロアを全て見回るも、これといった出来事もなく、真っ暗な学校なだけであった。二階へ向かおうかという頃にはやっと少しは目がなれ、教室の輪郭が確認できるが、やっぱこの状況って不気味だよな。
「なあ、結局バグってなんなんだよ」
「バグはバグよ。本来平衡世界となるはずだったもののできそこない。そこに人類はいないわ。ただ闇の世界が広がっているだけよ」
「じゃあ、本来あるはずの世界がバグってこんなになっちまったって言うのか?」
「そう、何かがおかしいイレギュラーな世界。でも排除しなくちゃいけないの。人間の身体もたった一つのウィルスで死に至ることもあるでしょ。通常と異なるものは排除しなくちゃいけないの」
「そうなのか。で、どうやったらこの世界を排除できるんだ?」
「バグの中にはその創造主がいるわ。そいつを倒せば消える」
「一応聞いておく。その創造主ってのはそんなのなんだ? まさかバケモノ的な何かなのか?」
「まあ、見れば一目瞭然だと思うんだけど、創造主は闇そのものなのよ」
「闇そのもの?」
「まあ、正確にはわからないんだけどね。闇が意識を持って存在しているわけ。そいつを倒せばこの世界は崩壊するわ」
「倒すってどうやって?」
「正体がわからない闇な以上、物理的にぶっ壊すのが普通でしょ? いままでもそれで解決してきたのよ」
なんとも豪快な。いかにもゆきねらしい物言いだな
しかし、夜っぽい学校で女の子と二人なんてとても緊張するシチュエーションだな、こりゃ。しかも、ゆきねはパッと見れば超が付くほどの美少女なので、すぐ隣を歩いていると若干緊張もする。絹のような髪から発せられる鼻腔をくすぐる仄かなシャンプーの香りに思わず眩暈を起こしそうだ。変な気を起こさなければいいのだが。
そんな杞憂とともに、二階へと続く階段にさしかかった瞬間、隣を歩くゆきねが突然立ち止まると振り向きざまに俺の肩が掴れ、
「んっ?」
と疑問を口にしている間にそのまま後ろにものすごい力で引かれ、特に踏ん張っていなかった俺はその後方への運動エネルギーに拮抗することができずに放り投げられた。と同時に鋭い金属音。
「ガキン」
しりもちをつく情けない格好の俺が見たものは、長刀を両手に何かに抵抗しているのようなゆきねの姿なのだが、俺にはゆきねの姿しか見えない。ゆきねが戦っている相手の姿が確認できず、まるで姿のない暗闇と戦っているようだった。
「ふん。不意打ちとは良い度胸じゃない」
そう言うと同時にゆきねは長刀を振り払い、大きく振りかぶるとそのまま振り下ろした。
再度聞こえる甲高い金属音。クリーンヒットしたっぽいその音を背景に長刀を床まで振り切るゆきねだが、そこから再度横なぎ一閃。どやらまだ敵は健在らしい。
「なかなかしぶといわね。でも次ぎで最後よ」
ゆきねが勝利宣言をしたのとほぼ同時くらいだった。俺にもわかるような気配はとてつもない勢いでゆきねに向かっていった。
「…………」
こんな沈黙が俺を迎え入れた。相変わらずの表情でゆきねが微動だにせず立っているじゃないか。
「よっ、よお」
「やっぱり来てくれたのね。異常は感じ取った?」
「いや、天笠から連絡がきたんだ」
「あの女から?」
「そうだ。この世界を救ってくれってさ」
「本当? あの女は組織の人間よ。そんな事を思うわけないじゃない」
「確かに言ってたぞ。まあ、何だかんだあいつも、この世界が楽しいんじゃないのか」
「そう……」
何かを考えていそうなゆきねだが、突然顔を上げたかと思うと、
「今晩中に決着をつけるわよ。来て」
そう言って、踵を返す。俺はゆきねに続くように校門から学校の敷地内に足を踏み入れた。
「そうそう、初めての時はちょっとビックリするかも」
振り返りながらさらっと言うが、そんな肝心な事を今さら言うな。
時既に遅し、校舎内に一歩足を踏み入れた瞬間、全身の毛が逆立つような感覚で、一瞬心臓がドクリと跳ねた。
「くっ!」
全身に力がはいらない。平衡感覚を失った俺は情けなく校門に手をついた。
「ちょっと大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
これから世界が終わるってのにこんな情けない姿をしてられないとな。天笠にも頼まれちまったし。両足に気合いを入れ、なんとは踏ん張る。よし! なんとか行けそうだ。
「とりあえず、校舎内へ入るわよ」
「ああ、見た感じここには何もないよな」
そう言って空を見上げてみる。先ほどまで星が瞬いていた夜空とは違い、質の悪い黒絵の具で塗り潰したような闇の世界が広がっていた。なるほど、確かにいつもの世界とは違うバグの世界って感じだな。
校舎内に入る頃には動悸が収まり、なんとか普通に歩けるようになった。職員玄関の辺りは特に異常はない。全てが闇でほぼ手探り状態だが、これといっておかしな点は見当たらなかった。
「……」
隣ではゆきねが俺の横を淡々と歩いており、こいつには全部見えているのか? 常人の視力ではないのではないかと思えるほど、いつも通りの姿勢と表情で廊下を歩いていた。
一階フロアを全て見回るも、これといった出来事もなく、真っ暗な学校なだけであった。二階へ向かおうかという頃にはやっと少しは目がなれ、教室の輪郭が確認できるが、やっぱこの状況って不気味だよな。
「なあ、結局バグってなんなんだよ」
「バグはバグよ。本来平衡世界となるはずだったもののできそこない。そこに人類はいないわ。ただ闇の世界が広がっているだけよ」
「じゃあ、本来あるはずの世界がバグってこんなになっちまったって言うのか?」
「そう、何かがおかしいイレギュラーな世界。でも排除しなくちゃいけないの。人間の身体もたった一つのウィルスで死に至ることもあるでしょ。通常と異なるものは排除しなくちゃいけないの」
「そうなのか。で、どうやったらこの世界を排除できるんだ?」
「バグの中にはその創造主がいるわ。そいつを倒せば消える」
「一応聞いておく。その創造主ってのはそんなのなんだ? まさかバケモノ的な何かなのか?」
「まあ、見れば一目瞭然だと思うんだけど、創造主は闇そのものなのよ」
「闇そのもの?」
「まあ、正確にはわからないんだけどね。闇が意識を持って存在しているわけ。そいつを倒せばこの世界は崩壊するわ」
「倒すってどうやって?」
「正体がわからない闇な以上、物理的にぶっ壊すのが普通でしょ? いままでもそれで解決してきたのよ」
なんとも豪快な。いかにもゆきねらしい物言いだな
しかし、夜っぽい学校で女の子と二人なんてとても緊張するシチュエーションだな、こりゃ。しかも、ゆきねはパッと見れば超が付くほどの美少女なので、すぐ隣を歩いていると若干緊張もする。絹のような髪から発せられる鼻腔をくすぐる仄かなシャンプーの香りに思わず眩暈を起こしそうだ。変な気を起こさなければいいのだが。
そんな杞憂とともに、二階へと続く階段にさしかかった瞬間、隣を歩くゆきねが突然立ち止まると振り向きざまに俺の肩が掴れ、
「んっ?」
と疑問を口にしている間にそのまま後ろにものすごい力で引かれ、特に踏ん張っていなかった俺はその後方への運動エネルギーに拮抗することができずに放り投げられた。と同時に鋭い金属音。
「ガキン」
しりもちをつく情けない格好の俺が見たものは、長刀を両手に何かに抵抗しているのようなゆきねの姿なのだが、俺にはゆきねの姿しか見えない。ゆきねが戦っている相手の姿が確認できず、まるで姿のない暗闇と戦っているようだった。
「ふん。不意打ちとは良い度胸じゃない」
そう言うと同時にゆきねは長刀を振り払い、大きく振りかぶるとそのまま振り下ろした。
再度聞こえる甲高い金属音。クリーンヒットしたっぽいその音を背景に長刀を床まで振り切るゆきねだが、そこから再度横なぎ一閃。どやらまだ敵は健在らしい。
「なかなかしぶといわね。でも次ぎで最後よ」
ゆきねが勝利宣言をしたのとほぼ同時くらいだった。俺にもわかるような気配はとてつもない勢いでゆきねに向かっていった。

