「てな訳で私は今絶賛無職状態よ。だから、あんた達の邪魔はしないわ」
「わかった信じるよ。それじゃあ」
俺は天笠の差し出した右手をとった。
「わわわ。遅れちゃいましたー」
いきなり生徒会室のドアが開くと麻衣が駆け込んできた。
「おいおい、もう少し穏やかにはいれないのかよ」
「だってー、遅刻しちゃいそうだったんだもん」
「だとしても、ノックくらいするのが常識ってもんだろ」
「むう、蘭のくせに。いいもん。今夜はご飯抜きだからね」
「おいおい、それとこれとは話が違うだろ」
「同じだもーんだ」
「クスクス。お二人は仲がいいんですね」
天笠はさっきまでと人が変わったよに、おしとやかキャラになってやがる。
「あっ、申し遅れました。私、天笠美羽と申します」
丁寧に頭を下げる天笠だが、さっきまでとキャラが違いすぎる。
「私は、夕凪麻衣です。よろしくお願いします」
こちらも丁寧に頭を下げる麻衣。
「おい、麻衣。この天笠だが、騙さない方がいいぞ……」
ここまで言った瞬間。鋭いボディーが炸裂した。
「ぐほぉ!」
「……? 蘭、どうかしたの?」
しかも麻衣の死角になる位置でってのがタチが悪い。
「会長、何か言いましたか?」
スマイル全開の天笠だが、その笑顔が怖いってーの。
こうして、俺たち生徒会は発足してしまった訳なのだが、我が南校生徒会は俺と書記の麻衣、そして会計の天笠という三人だけだ。学校側としてはこんな少人数の生徒会でいいのか? 甚だ疑問であるが、仰せつかってしまった以上、面倒以外の何者でもない生徒会とやらの業務をまっとうにこなさなくてはならないのである。まったくもってやれやれだ。
それからと言うもの、すっかり習慣付けられたように放課後生徒会室へ直行し席に着くと、
「会長、コーヒーです」
天笠はからくり人形のようにちょこちょことした足取りで、俺の前にやわらかい湯気が立ち上るコーヒーが置かれた。
「サンキュー」
とりあえず一口啜ると俺は会議資料に目を通し始めた。静まり返る生徒会室。学校の喧騒に中で唯一と言っていいほど静寂が支配した世界だ。なるほど、慣れてしまえば、これはこれでアリかもしれないな。
そんな生徒会室の中で聞こえてくる音といったら、俺が書類を捲る音と天笠がコーヒーを啜る音……のはずなのだが、なぜか今日に限ってはやたらと生徒会室が騒がしい。
「あっ、美羽、コーヒーお代わりね。ちょっと濃いめでお願い」
若干上から目線で追加コーヒーをせがむ声が聞こえる。だがまあ大した問題ではないさと頭を上げずに書類を確認しているが、はて、さっきの声の主は一体誰だ? 麻衣か? いやいや麻衣は天笠を呼び捨てになんかしないはずだ。俺の聞き間違いなのか?
「はい、お待たせしました」
そう言う天笠の声と机にカップが置かれる音が聞こえ、続いてそれをひと啜りする音が続く、
「ぷはー。やっぱ美羽の入れてくれたコーヒーは違うわね。そこいらの喫茶店より断然いい感じだわ」
この傍若無人な言動、俺の脳には若干一名の心当たりはあるものの、こんな場所に居る訳ないさともう一人の俺が語りかけている。そりゃそうだろ、生徒会となんら関係ないあいつがこの部屋に居る訳ないもんな。しかし……嫌な予感というかなんと言うか、いるはずもない人間のプレッシャーを感じている気がする。まるで俺の生物としての機能がしきりに何かを訴えているかのようだ。ここは意を決して顔を上げるしか方法はないのか?
まあ、そう言っても確認しなくてはならない訳で、意を決し顔を上げた俺は思わずこうツッコミを入れずにはいられなかった。
「おい、何やってんだ……巫部」
「なに?」
いかにも意外ですといった表情でこちらに振り返る巫部。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「何? 私がここに居ちゃいけないって言うの?」
「いけないだろ。ここは生徒会室なんだぞ。生徒会メンバー以外は立入り禁止だ」
「あらそうなの」
と言って再び読んでいた雑誌に目を落とした……。
「おいおい、人の話を壮絶にスルーするな。ここは生徒会メンバーの執務室なんだぞ、一般生徒は立入り禁止だ」
若干の上から目線で非難をするも、当の巫部はさして気にも留めていない様子でジト目を俺に向け、
「いいじゃないスペースに余裕があるんだから。キツキツでおしくらまんじゅうをしなくちゃならないほど狭いんだったら近寄らないけど、こんな広い部屋に三人だけだなんて、もったいないわ。エコロジーの時代なんだからスペースを有効に使わないと。だから私が使ってあげてるんじゃない。もう一つの世界を探すには、たまの息抜きも必要なのよ」
甚だ激しく間違った持論を展開する巫部だが、エコロジーって言うならお前がこの部屋で吐いた二酸化炭素はどうなるんだ。二酸化炭素は温室効果ガスの筆頭だぞ。
「はいはい、意味不明な事は言わないの。あっ、美羽! コーヒーもう一杯ね」
「はい、巫部さん」
すっかり天笠を家臣扱いし、さもデフォルトで生徒会のメンバーのように振舞う巫部。こりゃ何を言っても無駄なのか? などと、辟易としながら溜息を漏らしていると、生徒会室のドアを開ける音が響き、掃除当番だった麻衣がいつもの笑顔で入って来た。
「わかった信じるよ。それじゃあ」
俺は天笠の差し出した右手をとった。
「わわわ。遅れちゃいましたー」
いきなり生徒会室のドアが開くと麻衣が駆け込んできた。
「おいおい、もう少し穏やかにはいれないのかよ」
「だってー、遅刻しちゃいそうだったんだもん」
「だとしても、ノックくらいするのが常識ってもんだろ」
「むう、蘭のくせに。いいもん。今夜はご飯抜きだからね」
「おいおい、それとこれとは話が違うだろ」
「同じだもーんだ」
「クスクス。お二人は仲がいいんですね」
天笠はさっきまでと人が変わったよに、おしとやかキャラになってやがる。
「あっ、申し遅れました。私、天笠美羽と申します」
丁寧に頭を下げる天笠だが、さっきまでとキャラが違いすぎる。
「私は、夕凪麻衣です。よろしくお願いします」
こちらも丁寧に頭を下げる麻衣。
「おい、麻衣。この天笠だが、騙さない方がいいぞ……」
ここまで言った瞬間。鋭いボディーが炸裂した。
「ぐほぉ!」
「……? 蘭、どうかしたの?」
しかも麻衣の死角になる位置でってのがタチが悪い。
「会長、何か言いましたか?」
スマイル全開の天笠だが、その笑顔が怖いってーの。
こうして、俺たち生徒会は発足してしまった訳なのだが、我が南校生徒会は俺と書記の麻衣、そして会計の天笠という三人だけだ。学校側としてはこんな少人数の生徒会でいいのか? 甚だ疑問であるが、仰せつかってしまった以上、面倒以外の何者でもない生徒会とやらの業務をまっとうにこなさなくてはならないのである。まったくもってやれやれだ。
それからと言うもの、すっかり習慣付けられたように放課後生徒会室へ直行し席に着くと、
「会長、コーヒーです」
天笠はからくり人形のようにちょこちょことした足取りで、俺の前にやわらかい湯気が立ち上るコーヒーが置かれた。
「サンキュー」
とりあえず一口啜ると俺は会議資料に目を通し始めた。静まり返る生徒会室。学校の喧騒に中で唯一と言っていいほど静寂が支配した世界だ。なるほど、慣れてしまえば、これはこれでアリかもしれないな。
そんな生徒会室の中で聞こえてくる音といったら、俺が書類を捲る音と天笠がコーヒーを啜る音……のはずなのだが、なぜか今日に限ってはやたらと生徒会室が騒がしい。
「あっ、美羽、コーヒーお代わりね。ちょっと濃いめでお願い」
若干上から目線で追加コーヒーをせがむ声が聞こえる。だがまあ大した問題ではないさと頭を上げずに書類を確認しているが、はて、さっきの声の主は一体誰だ? 麻衣か? いやいや麻衣は天笠を呼び捨てになんかしないはずだ。俺の聞き間違いなのか?
「はい、お待たせしました」
そう言う天笠の声と机にカップが置かれる音が聞こえ、続いてそれをひと啜りする音が続く、
「ぷはー。やっぱ美羽の入れてくれたコーヒーは違うわね。そこいらの喫茶店より断然いい感じだわ」
この傍若無人な言動、俺の脳には若干一名の心当たりはあるものの、こんな場所に居る訳ないさともう一人の俺が語りかけている。そりゃそうだろ、生徒会となんら関係ないあいつがこの部屋に居る訳ないもんな。しかし……嫌な予感というかなんと言うか、いるはずもない人間のプレッシャーを感じている気がする。まるで俺の生物としての機能がしきりに何かを訴えているかのようだ。ここは意を決して顔を上げるしか方法はないのか?
まあ、そう言っても確認しなくてはならない訳で、意を決し顔を上げた俺は思わずこうツッコミを入れずにはいられなかった。
「おい、何やってんだ……巫部」
「なに?」
いかにも意外ですといった表情でこちらに振り返る巫部。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「何? 私がここに居ちゃいけないって言うの?」
「いけないだろ。ここは生徒会室なんだぞ。生徒会メンバー以外は立入り禁止だ」
「あらそうなの」
と言って再び読んでいた雑誌に目を落とした……。
「おいおい、人の話を壮絶にスルーするな。ここは生徒会メンバーの執務室なんだぞ、一般生徒は立入り禁止だ」
若干の上から目線で非難をするも、当の巫部はさして気にも留めていない様子でジト目を俺に向け、
「いいじゃないスペースに余裕があるんだから。キツキツでおしくらまんじゅうをしなくちゃならないほど狭いんだったら近寄らないけど、こんな広い部屋に三人だけだなんて、もったいないわ。エコロジーの時代なんだからスペースを有効に使わないと。だから私が使ってあげてるんじゃない。もう一つの世界を探すには、たまの息抜きも必要なのよ」
甚だ激しく間違った持論を展開する巫部だが、エコロジーって言うならお前がこの部屋で吐いた二酸化炭素はどうなるんだ。二酸化炭素は温室効果ガスの筆頭だぞ。
「はいはい、意味不明な事は言わないの。あっ、美羽! コーヒーもう一杯ね」
「はい、巫部さん」
すっかり天笠を家臣扱いし、さもデフォルトで生徒会のメンバーのように振舞う巫部。こりゃ何を言っても無駄なのか? などと、辟易としながら溜息を漏らしていると、生徒会室のドアを開ける音が響き、掃除当番だった麻衣がいつもの笑顔で入って来た。

