そんな出来事があって幾ばくかの時が経過し、って、殺されそうになるなんて非日常な出来事をさらっとスルーできるようになっちまった自分が恨めしい。なんて、泣き言を吐きながら麻衣と何気なく登校すると、昇降口でばったりと巫部に出くわしてしまった。
「あら?」
靴から上履きに履き替えていた巫部は俺たちを見つけると巣にかかった獲物を捕獲する蜘蛛のように一瞬で俺たちの目の前まで来やがった。
「巫部さん。おはようです」
麻衣は丁寧にお辞儀をしている。
「おはよう、麻衣。ところで、そっちの木偶人形はおはようの挨拶もないの?」
横目で俺を睨みながら髪をかきあげた。
「一応、言ってやる。おはよう、巫部」
「……」
シカトすんな。
「さあ、麻衣教室行きましょう」
そう言うと巫部は先頭に立ち、教室へ向かい颯爽と歩き出した。
そんな理不尽な態度に腹も立ったが、何か言い返すと十倍になって返ってきそうなので、ここは大人しく引き下がってやる。俺って大人だな。
そんな風に強制的かつ、効率的に自我を納得させていると、巫部が不意に立ち止まった。
「ん?」
「なんだよ。どうした?」
巫部は壁に貼られた紙を見つめており、肩越しにそれを覗きこむと、
『生徒会役員選挙のお知らせ』
そんな言葉が目に飛び込んでくるが、何故こいつはそんなものを見ているのだろうか。
しばらくは、その紙切れを見つめる巫部と、どうすることもできずに、その後ろに立っているだけの俺と麻衣という構図であった。
どのくらいそうしていただろう、そろそろ教室へ行かないと遅刻になっちまうぞという時間になると、
「……」
真剣な表情から不敵な笑みになった巫部は教室へと足を向けた。
「どうしたんですか?」
麻衣の問いに巫部は、
「いや、ちょっとね。面白いこと思いついちゃったかも」
そういいながら核心には触れず、教室に到着してしまった。おかしな電波女と出会ってから数週間。通常という言葉が懐かしく感じてしまうほど違和感全開の高校生活に慣れてしまった自分が怖い。あれ? 普通ってなんだっけ?
昼休み、麻衣と何気に喋っていると、巫部がなにやら怪しいスマイルで近寄ってきた。
「よう」
挨拶をあっさりとシカトし、俺に向かって一直線に向かってくるじゃねえか。何だ? 何事だ? 俺って何かヤバイことしたか? と思案するも、てんで思いつかない。そうしている間に巫部は俺の間合いに事もなく進入し、顔と顔がくっつきそうなくらいの距離まで迫ってくる。が、そのスマイルははっきり言って気持ち悪いぞ。
「な、なんだよ」
若干引き気味に言うと、巫部は微妙なスマイルをさらに『何か企んでいます』的な顔に変化させ、
「ねえ、アンタ生徒会長やらない?」
「は? 何言ってるんだ?」
「聞こえたでしょ、生徒会長やらないかって聞いてるのよ」
「ちょっ、ちょっとまて、いきなりなんなんだよ」
ちょっと待て、こいつは今何て言った? 生徒会長? 俺が?
「何聞いてるのよ、あんたの耳は飾り? ダンボの耳じゃないんだからマスコットじゃないのよ」
何故だ分からないが逆切れされた。何なんだこいつは。
「だーかーらー、生徒会長やらないかって聞いてるの。分かる? 生徒会長、生徒の代表で一番偉い人」
「ちょっと待てよ。いきなり何言ってるんだ? 生徒会長? 俺が? なぜ?」
「考えてみたんだけど、なかんか生徒会なんて面白そうじゃない? 私が調べたところによると、今度の生徒会選挙で二年生が誰も立候補しないんですって。だから一年生も生徒会長になれる可能性があるってこと。一年で会長だなんて、それこそ面白くなるんじゃない? だからあんたに言ってんの。この私が声をかけてるのよ。ありがたく思いなさい」
「待て待て、なんで俺なんだ? 生徒会長なんて一般的には頭の良い奴がやるもんじゃないのか? 俺の成績知ってるだろ? なんでよりにもよって俺なんだよ」
「なんとなくそう思っただけよ。いい機会だからやりなさい。あんたみたいに学園生活に夢も希望もないとこのままニート街道まっしぐらよ」
好き勝手言いやがって。俺にも夢くらいはあるぞ……多分。
「断る。生徒会なんて面倒以外の何者でもない」
もっともだと思うだろ? そりゃそうだ。生徒会なんて面倒ごとに巻き込まれてたまるか。俺の決意とは裏腹に巫部はさらに眉間にシワを寄せ、左手を腰にあてがい、右手の人差し指をびしっと俺に向け、
「うるさい! つべこべ言わずやればいいのよ! いい、これは命令よ! 麻衣も立候補するんだから、おとなしくやればいいのよ。立候補用紙は私が書いておくから」
そう告げると踵を返し偏西風に乗った勢いの台風並みに教室を後にした。
「……」
俺はあっけにとられ、気づいた時には巫部の姿は教室にはなく反論する機会を失ったことに気づいた。
「あっ、あれって何だったんだ?」
「さあ? なんだろうね」
「あれって、俺たちが生徒会をやるって流れになっちまったようだが」
「そうだね」
「今すぐ追いかけて取り消そうぜ、でないと本当に立候補させられちまうぞ」
「うーん。そう簡単にいくかな? 巫部さんは一回言い出したらてこでも言う事聞いてくれないんだよ。ちょっと無理かも」
何故だか笑顔を返す麻衣だが、そうなのか?
「うん、話をしていてわかったんだけど、とっても頑固で行動が早い人なんだよ」
相変わらず笑顔でさらりと言うが、この状況を分かっているのか? 俺に生徒会長が務まるわけがない。というか、そんな面倒ごとに巻き込まれたくないぜ。……ん? ちょっと待て、巫部は何て言った? 「麻衣も立候補するから……」って、こいつもやるのか?
「おいおい、麻衣も巻き込まれちまってるぞ、たしかあいつは麻衣も立候補するって言ってたよな?」
「あれ? そうだった?」
麻衣は人差し指を口の前に添え一瞬考え込むように首を傾げたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、
「でも、生徒会も楽しそうだね。頑張りましょう、会長」
おいおい、少しは嫌がってくれよ。って、既に俺が生徒会長なのは決定ですか? 麻衣の賛成アンド推薦により完全にヤバイ流れになっちまってるんじゃないのか。
「あら?」
靴から上履きに履き替えていた巫部は俺たちを見つけると巣にかかった獲物を捕獲する蜘蛛のように一瞬で俺たちの目の前まで来やがった。
「巫部さん。おはようです」
麻衣は丁寧にお辞儀をしている。
「おはよう、麻衣。ところで、そっちの木偶人形はおはようの挨拶もないの?」
横目で俺を睨みながら髪をかきあげた。
「一応、言ってやる。おはよう、巫部」
「……」
シカトすんな。
「さあ、麻衣教室行きましょう」
そう言うと巫部は先頭に立ち、教室へ向かい颯爽と歩き出した。
そんな理不尽な態度に腹も立ったが、何か言い返すと十倍になって返ってきそうなので、ここは大人しく引き下がってやる。俺って大人だな。
そんな風に強制的かつ、効率的に自我を納得させていると、巫部が不意に立ち止まった。
「ん?」
「なんだよ。どうした?」
巫部は壁に貼られた紙を見つめており、肩越しにそれを覗きこむと、
『生徒会役員選挙のお知らせ』
そんな言葉が目に飛び込んでくるが、何故こいつはそんなものを見ているのだろうか。
しばらくは、その紙切れを見つめる巫部と、どうすることもできずに、その後ろに立っているだけの俺と麻衣という構図であった。
どのくらいそうしていただろう、そろそろ教室へ行かないと遅刻になっちまうぞという時間になると、
「……」
真剣な表情から不敵な笑みになった巫部は教室へと足を向けた。
「どうしたんですか?」
麻衣の問いに巫部は、
「いや、ちょっとね。面白いこと思いついちゃったかも」
そういいながら核心には触れず、教室に到着してしまった。おかしな電波女と出会ってから数週間。通常という言葉が懐かしく感じてしまうほど違和感全開の高校生活に慣れてしまった自分が怖い。あれ? 普通ってなんだっけ?
昼休み、麻衣と何気に喋っていると、巫部がなにやら怪しいスマイルで近寄ってきた。
「よう」
挨拶をあっさりとシカトし、俺に向かって一直線に向かってくるじゃねえか。何だ? 何事だ? 俺って何かヤバイことしたか? と思案するも、てんで思いつかない。そうしている間に巫部は俺の間合いに事もなく進入し、顔と顔がくっつきそうなくらいの距離まで迫ってくる。が、そのスマイルははっきり言って気持ち悪いぞ。
「な、なんだよ」
若干引き気味に言うと、巫部は微妙なスマイルをさらに『何か企んでいます』的な顔に変化させ、
「ねえ、アンタ生徒会長やらない?」
「は? 何言ってるんだ?」
「聞こえたでしょ、生徒会長やらないかって聞いてるのよ」
「ちょっ、ちょっとまて、いきなりなんなんだよ」
ちょっと待て、こいつは今何て言った? 生徒会長? 俺が?
「何聞いてるのよ、あんたの耳は飾り? ダンボの耳じゃないんだからマスコットじゃないのよ」
何故だ分からないが逆切れされた。何なんだこいつは。
「だーかーらー、生徒会長やらないかって聞いてるの。分かる? 生徒会長、生徒の代表で一番偉い人」
「ちょっと待てよ。いきなり何言ってるんだ? 生徒会長? 俺が? なぜ?」
「考えてみたんだけど、なかんか生徒会なんて面白そうじゃない? 私が調べたところによると、今度の生徒会選挙で二年生が誰も立候補しないんですって。だから一年生も生徒会長になれる可能性があるってこと。一年で会長だなんて、それこそ面白くなるんじゃない? だからあんたに言ってんの。この私が声をかけてるのよ。ありがたく思いなさい」
「待て待て、なんで俺なんだ? 生徒会長なんて一般的には頭の良い奴がやるもんじゃないのか? 俺の成績知ってるだろ? なんでよりにもよって俺なんだよ」
「なんとなくそう思っただけよ。いい機会だからやりなさい。あんたみたいに学園生活に夢も希望もないとこのままニート街道まっしぐらよ」
好き勝手言いやがって。俺にも夢くらいはあるぞ……多分。
「断る。生徒会なんて面倒以外の何者でもない」
もっともだと思うだろ? そりゃそうだ。生徒会なんて面倒ごとに巻き込まれてたまるか。俺の決意とは裏腹に巫部はさらに眉間にシワを寄せ、左手を腰にあてがい、右手の人差し指をびしっと俺に向け、
「うるさい! つべこべ言わずやればいいのよ! いい、これは命令よ! 麻衣も立候補するんだから、おとなしくやればいいのよ。立候補用紙は私が書いておくから」
そう告げると踵を返し偏西風に乗った勢いの台風並みに教室を後にした。
「……」
俺はあっけにとられ、気づいた時には巫部の姿は教室にはなく反論する機会を失ったことに気づいた。
「あっ、あれって何だったんだ?」
「さあ? なんだろうね」
「あれって、俺たちが生徒会をやるって流れになっちまったようだが」
「そうだね」
「今すぐ追いかけて取り消そうぜ、でないと本当に立候補させられちまうぞ」
「うーん。そう簡単にいくかな? 巫部さんは一回言い出したらてこでも言う事聞いてくれないんだよ。ちょっと無理かも」
何故だか笑顔を返す麻衣だが、そうなのか?
「うん、話をしていてわかったんだけど、とっても頑固で行動が早い人なんだよ」
相変わらず笑顔でさらりと言うが、この状況を分かっているのか? 俺に生徒会長が務まるわけがない。というか、そんな面倒ごとに巻き込まれたくないぜ。……ん? ちょっと待て、巫部は何て言った? 「麻衣も立候補するから……」って、こいつもやるのか?
「おいおい、麻衣も巻き込まれちまってるぞ、たしかあいつは麻衣も立候補するって言ってたよな?」
「あれ? そうだった?」
麻衣は人差し指を口の前に添え一瞬考え込むように首を傾げたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、
「でも、生徒会も楽しそうだね。頑張りましょう、会長」
おいおい、少しは嫌がってくれよ。って、既に俺が生徒会長なのは決定ですか? 麻衣の賛成アンド推薦により完全にヤバイ流れになっちまってるんじゃないのか。

