「ねえ、さくらはどう思う?」
「そうねえ」
 そう答えたのは今まで存在を忘れていたこいつの使い魔だった。と言っても見た目は猫のぬいぐるみなのだがな。
「ゆきねの言っていることは真実よ。これまでも歴史はそうしてきたの。でもねえ、何故あなたはそこまで彼女に拘るの? 普通は世界滅亡を防ぐことと彼女を天秤にかけたら間違いなく前者を優先するわよね」
「そ、それは……」
「好きなの? 彼女のこと」
「なっ!」
 俺よりも驚いた声を上げたのはゆきねだった。だが、何故ゆきねが豆鉄砲を食らった鳩みたいな表情になっているのだろうか。
「いやいや、巫部に対してそんな感情はないですよ。だけど、何と言うか他の方法で解決できればいいなあと思っただけ。それが何なのかはわかりませんが」
「あらそう? 結構お似合いの二人だと思うけど。でも、そうねえ、確かに今までそういう考え方はなかったわ。ニームといえば問答無用で殺される存在。だけど、他の方法で世界の崩壊が防げるのであれば、それに越したことはないわね。そうねえ、少し探ってみようかしら」
 そう言うとさくらは再びカレーを食べ始めた。俺はゆきねに視線を向け、
「なあ、ということは、殺す以外に方法があるのかな?」
「…………」
 相変わらず呆けているようだった。
「おいおい大丈夫か? もしもーし」
 目の前で手を上下されると、ゆきねは、ハッと我に返り、
「えっ、何?」
「だから、巫部を殺さなくてもいい方法はあるのか?
「そっ、そうねさくらが言うんならその方法を探してみましょう。うんうん」
 しきりに頷いているが、一体何があったっていうんだ。

 ってな感じに再び闇の世界の住人が俺の家に同居することになった。傍からみたら同棲しているような気恥しい感じもするのだが、その裏では、世界の終りを防ぐなんてミッションを課せられているようなもんだからたまったものじゃない。俺は普通の世界に生きてたんだけどなあ。一体いつから歯車が狂いだしたのやら。こんなことを何度考えても答えなんかは浮かばない。とりあえず現実逃避を決めこみ、ながされるままに生きてみるかと思うのだが、それからの日々はこれまでが生ぬるいと思わせるほどに訳がわからなかった。一応断っておくが、これは俺が望んだことではないからな。