眩しい朝日が目を刺激する。
目を開けると、周りには誰もいなかった。

ゆっくりとベッドから降りると、近くにあるドアを開けた。


「あ…」
ドアの先はカムイの職務室だった。

「あぁ、目が覚めたのか。気分はどうだ?」
カムイは書類の山から顔をあげた。

「はい、大丈夫です。えっと、ありがとうございました。」
頭を下げてお礼を言う。

「別に特に何もしてないから気にするな。…ところで、お前の名前は?」
職務机から立ち上がると、カムイは近付いてきた。

「…ごめんなさい・・覚えていないんです。」

そっと胸元を握る。自分の口からこの事を言うのが、こんなに辛いとは思わなかった。


「そうか。…ま、名前なんて俺がくれてやるよ。」
カムイはそう言うと、頭の上にポンッと手を乗っけた。
ただそれだけなのに、とても安心して涙が出てきた。


死ぬつもりで身を投げたのに、辿り着いたのは知らない世界で、忘れるはずのない名前を忘れてしまって、周りには知らない人しかいない。
本当に不安で不安で、怖かった。

まるで幼子の様に泣きじゃくる私を、カムイはそっと抱き締めてくれた。