「この手見てわからない!?何の努力もしていない手!?水谷君は5歳の頃からずっとバスケをやってたのよ。大きなボールをリングに届かせることもできない頃からお兄さんに勝ちたくて」



 私は水谷君の手をさらに猿に近づける。



「あんたは中学生から。それにダルいとか言ってたくさんサボってたくせに!!水谷君はずっとずっと一人で練習してきたの!!苦手だって言ったのは、結局お兄さんに勝てないで終わったから。隆弘を褒めたのは、本当に上手いと思ったからよ!!」



 もう、みんなが黙り込んで大声を上げる必要はないのに私の怒鳴り声はさらに音量を増す。



「水谷君が何でもできる!?それは彼が努力しているから。見えないところでずっと努力をしているから。彼はそんなことを言わないけど、そうでしょう!?隆弘、あんたをずっと見下していて、それに気付かないほどあんたはバカなの!?猿以下なの!?水谷君は誰のこともバカにしない。まして、努力している人を笑ったりしないわ!!自分が誰よりも努力している人だもの!!」



「……俺は……」



「黙んなさい!!猿!!水谷君は極端に人を傷つけることを嫌う人なのよ!!あんたが傷つけるようなことしても彼は何も言わない。そういう優しい人をあんたは自分のプライドのために傷つけたのよっ!!八つ当たりするくらいなら、もっと自分の技術を磨けっ!!」



 そこで酸欠に陥り、私はぜぇぜぇと肩で息をした。


 ふらふらな私を支えたのは水谷君。


 でも、私の目に映ったのはいつもの涼しげで優しい水谷君ではなかった。