仕事が手につかない。
今日は浜野君と一緒に帰れるんだ。ドキドキする。
手とかつないだりしちゃうのかな。
なんてクダラナイコトばかり考えていると自然に顔が緩む。
愚かだ…受かれすぎ。でも嬉しい。
本当に授業どころじゃない。
授業が終わり、足早に塾をあとにした。
塾は駅前。塾は南口側なんだけど、私の家は北口側。塾の生徒の家はなぜだか南口側から帰る子が多く、北口側は死角なのだ。浜野君は北口側で待っていてくれた。
「遅いよ」
ニタッと笑う浜野君。…可愛い。
ギュッてしたくなる。
「ごめんね」って笑いながら言って隣りに立つ。今日は自転車がないみたい。
2人で並んで歩く。
浜野君の学校であった話を聞いた。私はうんうんうなずいてたけど、浜野君の手の行方が気になってた。
ずっとポケットの中…
自分から「繋いで」なんて言えないからわざと手を浜野君にぶつかるようにしたけどダメだった。
私の家のそばに来て、私は我慢できずに後ろから抱き付いた。
「大好きだよ」
どうしてか半分涙声だった。ヒトはあまりに愛しく想いすぎると泣けるのだと思った。
浜野君からの反応はない。
「ごめん、いやだった?」
離れて聞いてみる。そしたら、
「イヤじゃねーよ」って言って私を抱き締めた。
ビックリしすぎて、思わず「きゃっ」って言っちゃったけど、浜野君は温かった。
私は初めて他人の心臓の音を聞いた。私は愛しい人の心臓の音まで愛しくてたまらなかった。
その日の電話で彼は「今日でオレたちだいぶ距離縮まったよね」と言った。
私はこの人と出会えて本当に良かった。
この日から、浜野君からの電話が毎日になった。