「ウチの璃海泣かしただろって言ってんだよ!」

手近にいたイガグリ頭を、腕の一振りでぶっ飛ばす。

そうしてその隣の野球帽を、肘の勢いを殺さずに突き上げようとして……

背後から聞こえてきた声に、動きを止めた。

「ミツルちゃん! だめ!」

その、声は
確かさっきまで泣いていた、声。

「璃海……」

後ろを振り向くと、まず目に入ったのが、自分と同じ様にこの場に飛込んできた片割れ。

彼女が、自分の腕の中に抱き込んでいた妹を、びっくりした顔で見つめている。

そして

「ミツルちゃん、女の子はけんかしちゃ、だめっ!」

なみだを瞳いっぱいに貯め、にじんでぼんやりとした世界でも

その少女が言った言葉は、くっきりと辺りに響いていた。