ピピピピッ……ピピピピッ……。

「っんぅ……」

随分と頭に響いてくる時計のアラームの音で、オレは目覚めた。

左の窓のカーテンの隙間から、太陽の光がこぼれる。完全に疲れは取れていないのか、少々身体が重い。

昨日はいろんなことがあった。そして、出会ったばかりのルナと一緒に寝るという展開に……。
こんな事もあるのかと、未だに信じられない。そんな気持ちが心の中に残っている。

オレは、体を窓とは反対の左側に向けようと全身に少し力を入れる。
そう、ルナを起こすため。昨日は一緒に寝た。

だから、オレの真横にはルナが……。

「(いない!?)」

あまりの予想外の展開に驚き、一気に目が覚めた。オレは勢いで、体を起こす。
部屋を見渡しても、人影も何もない。また不安になってきた。ルナは、どれだけ心配をかけたら気が済むのだろう。

ドアを開け、部屋を飛び出し、階段を駆け下りていく。なんとなくだが、もしかしたらリビングにいるかもしれないと考えたからだ。

予想は的中。ルナは、昨晩とは違う木の椅子に座り、母さんに朝食について教わっていた。

「ルナ、心配かけないでください。てっきり、誘拐されたりしたのかと……」

「心配したんですって。良かったわね、ルナちゃん」

「ん」

全く。この人たちから反省の意が感じられない。
満足そうな顔をする母さんに、真顔で頷くルナ。まるで裏切られたかのような気分で、肩を落とし、ため息をついた。

ルナの方に歩み寄ると、早速質問。

「何時に起きたんですか?」

「ん」

オレの質問を理解したのかと思いきや、ただリビングにあった時計を指差しただけ。でも、それではわからない。

「え〜っと、母さん。ルナ、何時ぐらいに起きました?」

「ごめんなさい。私もわからないの。実は、私が起きるよりも早くここに座っていたから」

案外、ルナは早起きのようだ。そういう教育はしっかり教えていたんだろうか。誰がルナに教えていたかは知らないが……。

「で、今は?」

高さのある木製のテーブル。白いレースのテーブルクロスが掛かっており、テーブルの真ん中には、綺麗な花が生けてある花瓶が置いてある。

そのテーブルの上、つまり、ルナの目の前には母さんお手製の朝食。
目玉焼きに、トマトののっているグリーンサラダ。カリカリベーコンにバターロール。それとヨーグルト。
The朝食といったメニューだ。

「ルナちゃんに、今日の朝食のメニューを教えていたの」

「でも、ルナがちゃんと理解しているかはわからないですよ?」

「それでも、運良く覚えててくれるかもしれないじゃない」

母さんのポジティブ発想にある意味感心してしまった。
しかし、ルナも多少は理解しようという意識はあるのか、説明を聞きながら、うんうん、と頷いている。

「星矢も早く食べなさい。学校あるんだから」

「あ、そうでしたね。ルナの事で、ちょっと忘れてました……」

「星矢、ルナちゃんのことで頭がいっぱいね♩」

そんなことない、と否定しながら朝食を口に運ぶ。やっぱり美味しい。毎朝、この優しい味を口いっぱいに広げて、幸せを噛み締めている気がする。

ルナも、母さんになんとか食べ方を教えてもらい、今食べている。

「(食べ物の摂取の仕方も知らなかったんですね……あはは……)」

半分呆れているが、ここまでくると、もはや驚きもしない。

早めに朝食をすませると、ごちそうさまと言って、席を立った。だが、それを母さんの一言が止める。

「星矢、ルナちゃんも学校に通わせたらどうかしら?」

オレは唖然としてしまった。
日本語も喋れないこの子を高校に通わせるなんて、絶対無理だ。

「心配しなくても大丈夫。制服もバッチリ頼んであるから♡」

「(そういう事じゃないです!)」

母さんは無理矢理話を進める。高校は義務教育じゃないのに……。

ルナには、靴の履き方、お風呂の入り方の他に今さっき食べ物の摂取方法を教えたばっかりだ。

ルナが高校に通うなんて……。

第1話 END 2017.2.24