毎日ルナの学習タイム

「はぁ……はぁ……」

息を切らしながら、やっとの思いでオカマバーの前にたどり着いた。

疲れて、額に汗をながすオレに心配そうにこちらを伺うルナの眼差し。
なんとか抜け出すことができて、ここまで来れたことに安堵した。

さっきまでのことは、本当に夢の世界のようだった。
あのレーザー弾が当たっていたら、オレは死んでいたのだろうか、そう考えていた。

街は、今日最初にここに来た時よりも人の数が減って、気休めだが、少しだけ静かになった気がする。

そんな景色を見つめているオレたちに店の中から、足音が迫ってきた。

ビックリして振り返る。

「セイちゃん!もう、心配したのよ!」

そこにいたのは、涙でグシャグシャな顔になったチェリーさんだった。

「……汚い」

「最初の言葉がそれ!?どれだけ心配させたと思ってるの?あ、マスカラが取れちゃう……。それより、中に」

ルナに気づいていないのか、そこには触れず、オレたちを中に入れる。

「あ、あのすみません。いろいろと、その、巻き込まれちゃって……」

アハハ、と誤魔化すようにオレは笑う。だが、まだよ、とでも言うように、目元をゴシゴシと拭いたチェリーさんがこちらをまっすぐ見た。

「みんな、セイちゃんがすごく心配で……って、あら?その子誰?」

「(切り替えが早いです、チェリーさん。というか、今気づいたんですか……)」

ため息をついて、オレは話し始め……ようとするが、泣き声が邪魔をする。

「星矢ちゃ〜ん!お姉ざん、お姉ざん、ずごく心配で〜。お酒、もう12杯目、どうじてぐれるの〜……ぅ……ぅ(泣)」

そこにいたのは、オレの常連、葉月さんだった。かなり酔っ払っているようで、とてもフラフラしている。
それを、ローズさんが支えている状態。

「す、すみません。ご心配をおかけしました。今後は、気をつけます」

「どこに行って……」

最後まで言うのかと思いきや、葉月さんは喋るのをやめて、こっちを見て目を見開いた。
オレの背中越しをじっと見つめている。

「な、なんですか?」

「誰その子!?」

「(今更ですか!?葉月さんまで今更ですか!?なんで気づくの遅いんですか!?そんなにルナ、影薄くないです〜!)」

「可愛い!かわいい!カワイイ〜!おいで〜、グフフフ」

ニヤけた葉月さんが見ていて引くぐらい気持ち悪い感じで手招きしている。
怖い。

「そうよ。まさかセイちゃん。その子がタイプだからって誘拐したの!?」

青ざめた顔でおかしなことを言うチェリーさん。
オレがそんなことをする人間に見えるのだろうか。あまりにもオレへの信頼が薄すぎて、表情が歪んだ。

「ん?」

この状況が理解できていないルナは、不安なのか、オレに体を押し付けてきた。

「(っ!)」

離れなくては……。
また当たってしまっている。柔らかい……ではなく。降ろさないといけない。

しかし、ルナは裸足。床に降ろすのはできない。オレは、手のあいているフランさんに履物を頼んで、ルナに履いてもらうことにした。

「ふ、フランさん。彼女は裸足なので、靴、用意できますか?」

「は〜い、任せてちょうだい」

そう言ったフランさんは、店の奥の方に行き、しばらくして、女の子らしい靴を持って出てきた。

「はい、どうぞ」

床に置かれた靴をじっと見つめるルナ。
オレは、ルナを床に降ろす。

「ルナ、靴を履いてください。そのまま連れてきてしまったので」

「その子ルナちゃんっていうんだ!本当可愛い!グフフフ」

「外国人かしら?見た目とか、名前とかからして」

賑やかな周りは放っておいて、ルナの方を見る。
なぜか、ルナは動かない。靴を眺めたまま、止まっている。

「ルナ、履かないんですか?」

「……ん?」

ルナの頭には、『?』が浮かび、首を傾げている。まさか……。

「もしかして、履き方がわからない?」

「ん」

ここまで何も知らないとは思っていなかった。というか、ルナの親は何をしていたのだろう。
ルナが目を覚ます前に見た周りの光景もおかしい。たとえ、親がその時留守だとしても家具も何もない家。

ルナは今までどうやって過ごしてきたのだろうか。

オレは、ルナに靴の履き方を教える事にした。