春風駘蕩




会いたいときに会えないどころか、国境を幾つも超えた先でヴァイオリンを弾いているのだ。

もう、寂しさというより、会えないことを当然だと思うしかない。

そして、その寂しさを埋めるために、私は仕事と向き合っていたのかもしれない。

巽と再会し、そして仕事に没頭し始めてから約七年、来月三十歳を迎える私はひとつの節目を迎えた。

「それにしても、珍しいですね。私としては嬉しいことですが、由梨香さんがチケットを私に頼むなんて初めてですよね」

ぼんやりとしていた私は、内川さんの声にハッと視線を上げた。

「巽のチケットは必ずご自分で用意されているのに、何かあったんですか?」

怪訝そうな内川さんに、私は曖昧に笑った。

「今日は、どうしても巽の演奏が聞きたかったんです。だから、チケットが手に入らなかった時には泣いちゃいました。……お世話になりました」

私はそう言って、軽く頭を下げた。