春風駘蕩





小倉さんの計画が着々と進められ、巽と私はそのスケジュールに沿ってホテルに通ったりマスコミ向けの写真を撮られたり。

かなり忙しい日々を過ごしている。

「まあ、素敵ですよ。最近、引き振袖を見る機会が増えてきたとはいっても主流はウェディングドレスか白無垢ですからね。新鮮です」

ホテルの婚礼担当の人の声に、緊張していた心がほんの少し和らいだ。

続いて、「ネットでも評判になりそうね。ほんとにキレイ」と目を細める小倉さん。

小倉さんは「記者会見も和装がいいかしら……」とぶつぶつ言っている。相変わらず仕事人間だなと苦笑してしまう。

「由梨香……」

耳元に届いた声に視線を上げれば、いつの間に近くに来たのか、私をじっと見つめる巽の瞳があった。

忙しい合間に衣装合わせに来た巽の袴姿は、とても凛々しくて神々しい。

この姿でヴァイオリンも素敵かもしれないと、妄想してみる。

「格好いいよ、旦那様」

巽の手を取り、照れる気持ちを隠しながらそう言えば、巽がぎゅっと握り返してくれた。

そして、巽は私の顔を覗き込むと、私にだけ聞こえるような小さな声で囁いた。

「こんなにキレイな由梨香、誰にも見せたくないけど、やっぱり見せびらかしたい」

その甘い声はかすかに震えていて、私の心にすっと溶けていった。

幸せって、今この瞬間のこの気持ちのことをいうのかもしれない。





それから半年以上をかけて小倉さんが準備した結婚式、そして披露宴の写真は、あらゆる雑誌の表紙を飾った。

そのどれもが、巽と私の幸せを、隠すことなく見せつけていた。






【完】