春風駘蕩




「何枚食べる?巽が好きなブルーベリーもあるけど、生クリームと一緒に添えようか?」

ウキウキしながら冷蔵庫に向かえば、巽があとを追ってきた。

「座っててよ。あ、リビングに巽が載ってた雑誌とか新聞をまとめてあるから読んでれば?」

冷凍庫からパンケーキを取り出し振り返れば、目の前に巽がいた。

180センチの長身で見おろされれば、160センチ弱の私はかなり小さい。

おまけにキレイだという形容がぴったりの端正な顔。

はっきりとした二重の目で見つめられればドキドキしてしまう。

「えっと、すぐに用意するから、待ってて」

冷蔵庫を背に、あまりにも近い距離で私を見つめる巽に胸が高鳴る。

……三十路間近のくせに、いつまで巽にときめいているんだ、私。

高校の時からずっとそうだ。キレイすぎる顔で愛想がないくせに男性から嫌われることもなく、おまけに女性からの熱のこもった視線に反応することもない。

周囲に敵を作ることなく、かといって冷たいわけじゃない。

勉強を教えたり、学校行事ではリーダーとしてクラスメイトを率いていたし。

そして、成績だっていつもトップを争っていた。

欠点なんて何も見つからないオトコ、それが巽だ。

大人になった今もそれは変わらない。