春風駘蕩





「明日は何時の飛行機なの?」

「昼頃だから、朝はゆっくりできるんだ」

「そっか。じゃ、朝からいつものモーニングでも食べにいく?」

テーブルにコーヒーを置き、巽の目の前に座った。

コンサートが終わったあと、一足先に帰った私の家に、巽がやってきた。

こうしてふたりで過ごせるのは一か月ぶりだ。

秋以降、コンサートで忙しい巽は全国各地を回っている。

ホテル暮らしが続き、疲れているのか少し痩せたような気がする。

「ちゃんとご飯食べてる?」

「ああ。誰かさんと違ってお菓子で夕食を済ませるようなことはしてないから安心しろ」

意味ありげに笑い、私を見る巽。

「お菓子が夕食って……高校生の頃の話でしょ。今はちゃんと作ってるわよ」

「……みたいだな。さっき冷蔵庫を開けたら食材がかなりあったから、安心したけど」

「でしょ?あ、お腹がすいてたら何か作ろうか?」

巽が好きなメニューを頭に浮かべながら立ち上がると、巽の手がすっと伸び、私の手を掴んだ。

「ここに来るまでにスタッフと食べてきたからいい。……あ、あれがあったら食べたいかな」

「あれって、パンケーキ?」

「そう。いつも作って冷凍してるだろ?」

期待に満ちた巽の声に私は頷いた。