ショコラの気分でささやいて



2杯目のグラスが空になっても隣は空席のまま、連絡もできないくらい忙しいのだろうか。

じっくり待つつもりで、3杯目のカクテルを注文した。

彼がきたら何と言おう。

「私たち、すれ違いばかりだね。少し距離置こうか」 と伝えたら、彼は慌てるだろうな。

「2年も待てない……」 と涙をこぼしたら、すぐ結婚しようと言い出すかもしれない。

いや、融通の利かない男だから、言葉のままを受け取って 「わかったよ、別れよう」 なんて言い出しかねないわね。

「2年も待てない。私、福岡についてく!」 うん、これにしよう。


だけど、強引過ぎて愛想をつかされたら……

結婚話を切り出して、付き合いの長い彼に引かれた後輩の話が頭を掠めた。

あーん、もう泣きたくなってきた、どうすればいいのよ。

空のグラスを眺めながら、頭の中で彼との駆け引きを繰り広げていた私の前に、目を見張る豪華なスイーツがおかれた。



「お連れ様からです。もうしばらくお待ちくださいとメッセージもございました」


「これ、なんですか? あっ、チョコですね。わぁ、すごい……」


「ショコラタワーでございます。すべて味の違うチョコレートを重ねております。

カクテルと一緒にお召し上がりください」



数種類のキューブチョコレートが積み重なってできたショコラタワーは、沈ん気持ちを一気に引き上げた。

この店オリジナルのバレンタインデースイーツは一日限定数品で、大変人気があるそうだ。

もうすぐバレンタインデー、今年は彼から私に贈ってくれたということ?

それにしても、なんて豪華なスイーツだろう。

森本さんって、ときどき、とんでもなく気の利いたことをやってくれる。

いまでは恒例のホワイトデーのお泊りもそうだ。

ホワイトデーは、デザートが絶品のペンションに泊まろうといわれて、本当に驚いた。

デザートを堪能する私に、ショコラはフランス語でチョコレートのことだよと言いながら、自分も満足そうだったな。

楽しいことも多くて、一緒に美味しいスイーツをいっぱい食べて、笑って……

それだけじゃない、辛くて悲しい時も支えてくれた。

母の葬式のあと、急に寂しくなって、彼にすがって泣いたわね。

泣き疲れて寝てしまった私を、目覚めるまで抱いてくれていた。

彼の腕の中で目が覚めて、腕のぬくもりにどれほど救われたか。

スイーツを語る以外は口下手で、意思の疎通がうまくいかない時もあるけれど、森本謙信は私にとって愛しくて大切な人。

それにしても綺麗……

ショコラタワーに見とれるうちに、波打った心も凪いできた。