「…お兄ちゃん?」

少し不安になって、一馬を呼ぶと、一馬はハッとして、笑顔が戻った。

「…仕事でトラブルが起きたらしくて、急遽日本に帰ったよ。手術の無事は確認して帰ったから」

「…そう。大企業の社長だもの。仕方ないよね」

そう言って、寂しげな笑顔を見せると、一馬は少し顔を歪めた。

「…仕事に戻るよ。満里奈、術後の合併症がなければ、一月もすれば、退院出来るから」

その言葉に、満面の笑みを浮かべると、一馬も嬉しそうに微笑む。

「…くれぐれも無理はするな。二三日は、ICUで様子を見て、何もなければ一般病棟に移れるからな」

「…うん。…お兄ちゃん」
「…ん?」

「…手術費用、退院したら、少しずつだけど、全部返せるかなんてわからないけど、ちゃんと返していくからね」

私の思いがけない言葉に、一馬は行こうとしていた体を反転させ、私の目の前まで来ると、しゃがみこんだ。

「…俺は1円も出してない」
「…え?どう言うこと?」

「…満里奈はそんな事、気にしなくていい。じゃあな」
「…お兄ちゃん」

…本当は、一馬と父、二人で費用を出す予定だった。でも、それは、もしもの時に置いていて欲しいと言われた。

その相手は、他の誰でもない。零士だ。