私の答えに、一馬は目を見開いて、私の名を呼ぶ。

私は至って冷静に、一馬に笑顔を向ける。

「…私に縛られないで、お兄ちゃんは、お兄ちゃんの路を歩いて欲しい」

「…バカな事を言うな。俺には今までも、これからもずっと、満里奈の為に、生きていきたい」

私は首をふった。

「…今まで、お父さんやお兄ちゃんに生かしてもらった事は、本当に感謝してるの。ううん、感謝してもしたりないくらい」

「…それなら」

「…私ね、手術はしたくないの」
「…どうして?」

「…綺麗に生んでもらったこの体に、傷をつけたくないの」

「…傷なんて、気にすることない」

「…私ね、御崎社長の事が好き。御崎社長を1人の男性として好きなの。短い命なら、その精一杯で、御崎社長を好きでいたい」

…今日、好きの気持ちが愛だって確信した。

「…あの男はダメだって言っただろ?」
「…ごめんなさい。でも、好きなの。好きな気持ちを捨てたくない」

…一馬は、それには何も言わない。

「…でも、安心して?この気持ちは、御崎社長には、言わないつもりだから」

「…そんなの満里奈が辛いだけだろ?」

「…ぅん、そうかもしれない。でも、私が死んじゃうってわかったら、御崎社長がもっと辛い思いをするでしょう?」

「…そんなに、あの男が、好きなのか?」

一馬の言葉に、頷く。

…。

しばらくの沈黙のあと、一馬は大きな溜め息をついた。

「…満里奈」
「…何?」

「…満里奈は絶対にアメリカに連れていくから」
「…お兄ちゃん」

一馬は、そのまま、病室を出ていった。