書類をとどけた私は、誰もいないことを確認して、ポケットの中から、紙切れを取り出してそれを見る。

…午後8時に、社長室へ

とだけ書かれていた。…今日も、零士の家に帰るのだろうか?

これ以上迷惑はかけたくないと本当に思うのだが。

アパートに帰れないかな。

そんなことを考えつつ、仕事をこなす。

庶務課のみんなが帰ってからも、オフィスで雑用をこなしていると、時間が過ぎていることにも気づいて居なかった。

「…満里奈は、約束は守れないのか?」
「…へ?…あ!…社長」

…午後8時30分。待ちくたびれた零士が、庶務課迄、迎えに来てしまった。誰もいないからいいものを。

「…すみません、でも、わざわざ来られなくても…電話下さればよかったのに」
「…もう、帰るのに、社長室に来る必要も、ないかと思って」

「…社長、もう少し気を付けた方が」
「…何に?」

誰かに見られたらどうするのか?あらぬ噂が零士にとって、命取りになりかねない。

「…あらぬ噂がたって、社長が、社長じゃなくなったら、私はどうしたらいいか…」

その言葉に、零士は一瞬驚き、でも直ぐにフッと笑う。


「…笑い事じゃ」
「…この会社は、恋愛禁止じゃない。俺が、誰を選ぼうが、文句なんて言わせない」

そう言ったかと思うと、零士は私の腰に腕を回し、私を引き寄せた。

「…社長?!」

真っ赤な顔で驚く。

「…零士と言ってくれた方が嬉しいんだが?」
「…こんなところで」


「…言わないと離さない」
「…」

「…早く」
「…零士さん」

「…いいな、やっぱり」
「…社…ん…」


唇を奪われた…深く…深く…


そのキスに酔いしれてしまって、ここが、会社だと言うことを忘れていた。