空いてる方の手で、顔を隠す。

…コツン。頭と頭が軽く当たる。間近に零士の顔があるのがわかるから、尚更この手は除けられない。

「…満里奈」
「…」

何も言えない。

「…ほったらかしにして悪かった」

…謝る必要はないのに。零士は大企業の社長で、多忙な人なのだから、仕方ない。

「…満里奈、顔を見せてくれ」
「…嫌です」

心にもないことを言ってしまう。

「…満里奈、ゴメン」
「…謝らないで」

「…満里奈」
「…何度も呼ばないで」

優しい低い声。聞いてるだけで、胸が温かくなる。

「…何度も呼ぶよ、好きな女の名前なら」

…好きな女の名前なら?

それなら私も、零士の名前を何度も呼びたい。

そうか、やっぱり思った気持ちは思い違いじゃなかった。

私は、零士が気になってるけど、それは、好きだからだ。

「…零士、さん」
「…?!」

初めて、呼びたかった言い方で、名前を呼んだ。

零士の体が、ピクッと、驚いたように動いた。

…初恋の人。

…初恋の人の名前。

…好きと言えたなら。

「…満里奈、今、俺の名前呼んだよな」


少し嬉しそうな零士の声に、相変わらず顔は隠したまま、コクリと頷いた。

…あ。

「…やっと、満里奈の顔を見れた」

そう言った零士の顔は柔かな笑みを浮かべた。

それとは対照的な私の顔。

「…満里奈?」

涙がポロポロと頬を伝う。

…好きだって言えない。…苦しくなるから。…零士を傷つけるから、好きなんて言えない。