「…お兄ちゃん、どういうこと?私はずっとお兄ちゃんとして慕ってきたし、そんな、結婚だなんて、お嫁さんだなんて」

オロオロする私の手を握った一馬は、とりあえず、私を落ち着かせる。

昔からそうだ。私が困ったとき、悩んでるとき、泣いてるとき、怒ってるとき、いつもこうやって両手を握りしめて落ち着かせてくれた。

「…満里奈。お前はなにも知らずに育ってきた。驚くのも無理はない。俺だって、満里奈と血が繋がっていないのが分かったのは、中1のときだよ。でもだからこそ、満里奈への気持ちにも気づけた。最初は戸惑うかもしれない。でも、俺なら満里奈を幸せにする自信はある」

…いつの間にか、父は応接室から出ていっていた。今は二人きり。

突然に沢山の事を言われ、頭はパンク寸前。

でも、結婚に関してはNOと、言いたかった。

「…お兄ちゃんは、今までも、これからもずっとお兄ちゃんだもの。結婚なんて考えられない。それに」

…それに、とても気になってる人がいるから。

「…御崎零士はダメだ」
「…え?」

ズバリ零士の名を言われ、ドキリとする。

「…あの男は、人を人だと思っちゃいない」
「そんなことない!御崎社長は、私を大事にしてくれる」

強引じゃなく、いつも私の事を考えて行動してくれる。

「…満里奈は、あの男にとって、滑降の獲物だ」

…滑降の獲物。

「…そのうち満里奈を捨てる。それくらい軽くしか考えてない」

「…そんなことない」

零士はそんな人じゃない。潤んだ瞳で一馬に訴える。

「…現に今、満里奈はほったらかしだ。そうだろ?」
「…」

それには言い返せなかった。連絡もなくて、寂しくて悲しい。