驚きすぎて、涙がボロボロ流れ出す。

それに驚いたのは、もちろん零士。

「…悪い、冗談がすぎた」

私の涙を拭い、ぎゅっと抱き締める。

その慌てように、この人は本当に御崎コーポレーションの社長なのだろうか?

怖いと噂され、あれだけの大企業のトップに君臨する男のあり得ない慌てように、いつの間にか笑みがこぼれる。

「…泣きながら笑うやつがあるか」
「…だって、御崎社長があんまりあわてふためくから」

涙を拭いながら、笑う私の頭を優しく撫でる零士。

…零士なら、大丈夫かもしれない。

傍にいても。こうやって触れても。

「…御崎社長」
「…なんだ?」

「…やっぱり止めました」
「…なんだよそれ?」

その事を言おうと思ったけど、こうやって度々不意打ちのキスは困るので、今はまだ、言わないでおくことにした。


…それから二人は起きて、ご飯を食べ、私は念入りに身支度しつつ、零士は一度自宅に帰るための簡単な身支度をした。

「…また来る」
「…はい」

玄関先で、零士を見送る。零士は私の頭をポンポンと撫で、ドアを開けた。

「「…」」

ドアを開けた零士は身動きを止めてしまった。

どこかを一点に見つめている。私は背の高い零士のせいで、その先が見えず、零士に問いかける。

「…どうしたんですか、御崎社長?」
「…御崎社長?」
「…」


私の言葉に反応したのは、零士ではなく、聞き覚えのある声だった。


「…満里奈、この男は誰だ?」
「…お前こそ誰だ?満里奈を呼び捨てにするな」


…零士の体が動いたのと同時に相手の顔が見えた。