「…来るとは思わなかった」

私は零士のスーツの裾をぎゅっと掴む。あり得ない行動に、零士は驚いている。

「…私は社長が苦手なんです」
「…あぁ、知ってる」

「…色々されては迷惑なんです」
「…」

「…迷惑なはずなんです」
「…満里奈?」

「…男の人は怖いのに」

更にスーツの裾をぎゅっとする。そして、零士を見上げると。

「…どうして、御崎社長の事ばかり気になるんでしょうか?」

「…満里奈、それって」

最後まで言わないまま、零士は私を抱き寄せた。

「…震えてる」
「…男の人が怖いっていってるじゃないですか」

「…じゃあ何故抵抗しない?」
「…前に進もうと思うから」

私の言葉に、少し体を離して私を見つめる零士。

「…満里奈」
「社長を、好きになれるかなんて分かりません」

「…」
「…でも、社長の傍にいたいと…いえ、あの、傍にいてもいいですか?」

相変わらず、震えは止まらない。声も上ずる。

でも、心を奮い立たせて言ってみた。

「…満里奈がそう言ってくれるなら。いつまでも傍に」

「…明日、嫌になるかもしれません」

私の言葉に、フッと笑った零士。

「…嫌になんてさせない。俺の事しか考えられないようにしてやる」


…その後、零士は私を家まで送ってくれた。

友人でもなければ恋人でもない、不思議な関係。

でも、それがかえって心地いい。

「…ありがとうございました」
「…月曜日」

…月曜日?

「…お楽しみは取っておこう」
「…御崎社長」

最後まで聞けないまま?零士は行ってしまった。