手に包帯を巻いた一馬。そのとなりには、満里奈がいた。

「…認めません」

そう言ったのは、一馬。

その場にいた全員が驚いた顔をした。

「…満里奈は誰にも渡さない」

その言葉をいい終えたと同時に、一馬は満里奈の手を引っ張り、走り出した。

満里奈は抵抗する間もなく、されるがまま。

「…お兄ちゃん!離して!私には零士さんだけなの」
「…うるさい!」

…今まで、ただの一度も満里奈に声を荒げたことのなかった一馬の怒声に、満里奈は黙りこんでしまった。

二人のあとを直ぐに追いかけ始めた零士だったが、先にエレベーターに乗られ、閉められてしまった。

「…クソッ…上」

そのエレベーターは上へと向かう。

零士は階段をかけ上がった。

ここで、満里奈を諦めることなんて、零士にはあり得なかった。

…。

エレベーターは最上階についた。

そこは、救急ヘリ受け入れの屋上。

「…お兄ちゃん、どうして諦めてくれないの?私には零士さんだけなのに」

泣きながら、震えた声で満里奈が言う。

「…俺にとっても、満里奈だけなんだ」

「…満里奈!」

間もなくして二人のあとを追いかけてきた零士に、声をかけられた満里奈は振り返る。

「…一馬さん、満里奈を返してください」

気が高ぶっているであろう一馬に冷静にそう言った零士。