最上階に着くとすぐ、秘書が受付で仕事をしている。

「お疲れ様です。庶務課の者ですが、社長室にお届け物です」

手渡したら直ぐに下へ下りるつもりでいたのに。

「ありがとうございます。あ、ちょっと今手が離せなくて、それ、社長室に入れてもらえますか?社長には直ぐに伝えます」

慌ただしくそう言った秘書が、社長室に内線。満里奈は渋々社長室へと足を進め、ドアをノックした。

「…庶務課の者ですが」
「…入れ」

溜め息をつき、満里奈はドアを開けた。

…零士はこちらを見ることなく、書類に目を通している。

何か言われる前に、早く立ち去らなければ。

そそくさとデスクの前に行くとそれらをおき一礼する。

「…ここに置いておきます。失礼しました」

それでもこちらを見ない、言葉も発さない零士にドキドキしながら、満里奈は踵を返してドアに向かう。

そして、ドアノグに手をかけたときだった。

満里奈とは別の大きな手が上におかれた。

当然満里奈は驚いて、顔だけ振り返る。

「…社長、何か?」

その冷たい眼差しに、満里奈は息を呑んだ。

「…仕事が終わったら、社長室に来い」
「…む、無理です」

「…業務命令だ。拒否は許されない」

その言葉の後、満里奈は心臓が跳ねた。

…零士が、満里奈の長い髪を唇に当てている。

「…せ、セクハラです!」

離れようとしたが、後ろはドア。無理なことだ。

「…来ないときは、クビになると思っておけ」
「…」

黙りこむ満里奈をよそに、零士は髪から手を離し、デスクに戻っていった。

満里奈も逃げるように、社長室を出ていった。