「だーめ! 俺の!」

「じゃ、じゃあからかってないで食べて下さい!」

「からかってるつもりはないんだけどなー……」


再び聞こえた小さな声に頬が更に熱くなっていく。
それを山瀬さんはからかってきたけど、優しい笑顔を浮かべる彼に何も言えなかった。
胸が熱くなって、頬が勝手に緩んでいく。
気が付けば私たちは顔を見合わせて笑い合っていた。


「……ミサキさん! 一緒に食べましょう!」

「え? でも……」

「一緒に食べたいんです。君と」


屈託のない笑顔を向けられて断れる訳もなかった。
近くにあったベンチに2人で腰かけて太巻きを食べる。


「うまっ!! ってか具沢山ですね!?」

「はい、マグロにイカ、サーモンにアナゴ、ネギトロ! 豪華な巻き寿司でしょ?」


ふふっと笑いながら静かに空を見上げた。
山瀬さんは不思議そうに視線を向けていたが私と同じ様に空を見上げていた。


「……希望のお寿司」

「え……?」


小さく呟けば山瀬さんはこっちを振り向いた。


「私はそう呼んでいます。
私があそこで働くキッカケになったものですから」

「……キッカケ……か」


山瀬さんの声は小さくて今にも紛れてしまうくらいだった。
でも私の耳には届いた。
しっかりと、強く。