守りたい、不器用な人。~貴方と始める最後の恋~

「お仕事……楽しくないんですか……?」

「んー……やりがいはあると思います。頑張った分だけ結果が目に見えるので。
でも……なんて言うのかな……」


私の質問に言葉を探す様に目を閉じると山瀬さんは小さく唸っていた。
そして適当な言葉を思い付いた様に口を開いた。


「別に俺じゃなくてもいいんです、今の仕事は」

「山瀬さんじゃなくても……?」

「……はい。俺にしか出来ない仕事がしたいってずっと思ってたんです。
でも……それが何かよく分からなくて……大学に行っても見つからなくて……。
結局、周りの就活の流れで俺も……って感じで」


苦笑いをする山瀬さんを見つめる。
山瀬さんはこっちを向く事は無かった。
私の隣で空を見上げながら儚い笑顔を浮かべている。


「ミサキさんは凄いです。ミサキさんにしか出来ない仕事をしているんですから」

「え? でもお寿司を握るのは誰でも出来るじゃないですか?」


意味が分からなくて首を傾げた。
大将だってチーフだって、沢山の人が同じ仕事をしている。
寧ろ、山瀬さんの仕事の方が誰にでも出来る事ではない。
あんな一流企業、入るだけで大変なのに……。
そう思っていれば山瀬さんはゆっくりと視線を私に向けた。


「誰にでも出来る事ではありませんよ。
ミサキさんの握ったお寿司が食べたくてお店に通ってる人だって少なくないはずです。
ミサキさんの代わりになれる人なんていないんです」

「……山瀬さん……」


買い被りな気もするが嬉しい事に変わりはない。
場違いなのにニヤケそうになってしまうが必死に唇を引き締めた。