「うちの海咲を頼みます」

「ちょっ……チーフ何言って!!」


いきなりの言葉に戸惑っていれば山瀬さんは間髪入れずに頷いていた。


「は、はい!!」


しかも満面な笑顔でだ。


「……アンタなら海咲を変えてくれるかもな」

「チーフ……?」

「何でもねぇよ! じゃあ先に入ってるな」

「は、はい」


チーフは私たちの横を通り過ぎてお店へと入っていった。

2人になった空間は静まり返っていたけれど。
嫌な沈黙ではなかった。


「あ、これ!」


そんな時、思い出したかの様に山瀬さんは私に紙袋を差し出した。


「もしかしてジャージ……ですか?」

「はい! 結局渡しそびれてしまって……」


その言葉に申し訳なさが漂ってくる。
山瀬さんはお店に来る時は毎回この紙袋を持っていた。

毎日通っていたのだってジャージを返す為だったはずだ。

それなのに。

冷たくする為に、関わらない様にしていた。