店に戻れば大将の視線が向けられた。
そして、いつものトーンで話し掛けられる。


「海咲! お前もう上がれ」

「え……」

「不安定な心では美味い寿司は握れない、今のお前に店に立っていられると困る」

「た、大将! 私は……」

「いいから上がれ」


有無を言わせない様な雰囲気。
そして、もう用はないと背けられた視線。

話し掛けようとしたが、上手く口が動かなかった。


「……お先に失礼します」


頭を下げて更衣室に向かおうとすれば、大将の小さな声が届く。


「気持ち落ち着かせて、また一緒に頑張るぞ」

「……はいっ……」


大将は全てを見透かしているのかもしれない。
見透かした上で、こうしてくれているんだ……。
大将の優しさが身に沁みって、乾いたはずの涙が溢れ出しそうになる。


「失礼します」


今度こそフロアを後にしようとすれば、山瀬さんと視線が交じり合った。