「凄い! 包丁さばき早いですね!」
 
「……ありがとうございます」


何故か輝いた目で見られる。

その目は好きな人を見る目というよりは……。
憧れの人を見る目に近い気がするのは気のせいだろうか。


「……ミサキさんは……お寿司屋さんになるのが夢だったんですか?」

「……そんな大層なものじゃ……。ただお寿司が大好きで……っ……!!」

「ミサキさん……?」

「……少し外します」

「え?」


驚く山瀬さんを置き去りにして、包丁を置いて奥へと引っ込む。

水道を捻り水を流しっぱなしにしながら小さく呟いた。


「夢なんて……綺麗なものじゃない……」


目頭が熱くなり、耐えきれなくなった様に雫が零れた。


「っ……」


頬を伝う涙は止まる事を知らないかの様に流れ始める。
水道の音が嗚咽を掻き消してくれるが胸の哀しみは決してはくれない。